コラム

「月給50万円でも看護師が集まらない」医療逼迫下、日本でも「命の選別」は始まっている【コロナ緊急連載】

2021年01月11日(月)10時27分

危機モードのロンドン──1日の新規感染者数が6万人を突破したイギリスと日本の共通点は(1月8日)  John Sibley-REUTERS

[ロンドン発]3度目のロックダウン下にあるイギリスでは、新型コロナウイルス感染症の新規感染者数が1日当たり6万人を突破し、死者が累計で8万人を超えた。

米SFテレビドラマ『宇宙大作戦』に登場するミスター・スポックのように、いつも沈着冷静な英イングランド主席医務官のクリス・ホウィッティ氏が悲壮感を漂わせながら英日曜紙サンデー・タイムズで「冬の病院は常に逼迫するが、いくつかの地域では最大の危機に直面している。感染爆発を抑えるため外出せず不必要な接触を避けよ」と訴えた。

「世界の8割おじさん」こと感染症数理モデルのスペシャリスト、インペリアル・カレッジ・ロンドンのニール・ファーガソン教授も同紙に「コロナによる入院患者はさらに10~20%増え、新たな死者が2万人出るのを避けるのは難しい状況だ」と死者10万人超えの見通しを語る。ロンドンでは先週、30人に1人が新たに感染し、すでに第1波と第2波で人口の25~30%が感染したという。

原則無料で医療サービスを提供する英国民医療サービス(NHS)の病院関係者は筆者に「ロンドンでは陽性の入院患者は春のピーク時より30%多く、6400人が入院中だ。集中治療室(ICU)のキャパシティーは現在1500床。今週には2000床必要になる。一番感染が広がるロンドン東部のバーキングでは25人に1人が陽性だ。山場は今週に来る」と語る。

コロナ入院患者はイギリス全体で現在3万559人。昨年春の最悪期の4割増しだ。英医師会のチャンド・ナグプール会長は会員への書簡で「コロナに感染した病院のスタッフは4万6000人を超えた。現在の救命救急治療の需要さえも管理するのに苦労している。そこにさらなる圧力が加わっている」と危機的な状況を報告した。

生命の選別を意味する緊急トリアージが始まった

ロンドンのサディク・カーン市長は8日、「ロンドンでの新型コロナウイルスの感染爆発は制御不能である」としてテロや大規模火災の際に出される「重大事案」を宣言した。「制御不能」とはどんな状況なのか。インペリアル・カレッジ・ロンドンのカタリーナ・ハウク博士はロンドンの病院の状況をこう語る。

「ロンドンの病院は圧倒されている。病院は一般病棟を急きょ救命救急病棟にしてコロナ患者収容のキャパシティーを増やした。スタッフは残業している。しかし悲しいことに一部の病院は現在、集中治療を必要とするすべての患者の緊急トリアージについて英国立医療技術評価機構(NICE)のガイダンスに従うことを余儀なくされている」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米CPI、9月前月比+0.3%・前年比+3.0% 

ビジネス

中国人民銀、成長支援へ金融政策を調整 通貨の安定維

ビジネス

スイス中銀、リオ・ティント株売却 資源採取産業から

ワールド

ドイツ外相の中国訪問延期、会談の調整つかず
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 2
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...装いの「ある点」めぐってネット騒然
  • 3
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼稚園をロシアが攻撃 「惨劇の様子」を捉えた映像が話題に
  • 4
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 8
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 9
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 10
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 9
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 10
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story