コラム

なぜ日本は「昭和」のままなのか 遅すぎた菅義偉首相の「デジタル化」大号令

2020年09月22日(火)12時15分

07年にロンドンに赴任した時も、携帯電話はアップルのiPhoneやサムスンのギャラクシーではなく、みなノキアの製品を使っていた。日本の携帯電話の方がはるかにお洒落だと感じた。しかし日本の時計の針は進む速度を次第に落とし、完全に止まってしまった、というより逆戻りしてしまった。

ICTを生徒に使わせている日本の中学校教師は2割以下

今月発表された経済協力開発機構(OECD)の「図表でみる教育2020年版」でも日本の「デジタル後進国」ぶりが改めて浮き彫りにされた。

発表資料では日本の中学校で授業やプロジェクトのために生徒にICT(情報通信技術)を「頻繁」もしくは「いつも」利用させている教員の割合は36カ国中、最下位の20%以下。一方、トップのデンマークは90%超。自らのスキル向上のためにオンラインコースやセミナーを活用している教員の割合は約10%で、40カ国・地域の中で39位だった。

思いつくまま日本のデジタル化が遅れている分野を例示してみよう。

・日本ではまだFAXが使われている。全世帯の3割が保有。古いデータになるが2013年時点で、人口1000人当たりの台数は日本約93台で、イギリスの約25台、ドイツの約46台、アメリカの55台に比べてはるかに多かった。

・日本の新聞発行部数は3781万部を誇る。読売新聞と朝日新聞の新聞発行部数は世界でも断トツの1位と2位。高齢の読者が多く、デジタル化が進められない。

・ネットフリックス(Netflix)の契約者数が500万人と少ない。全人口に対する加入率は4%弱。イギリスの契約者数は1300万人超で加入率は19%。DVDレンタル店が日本では減ったとは言え、まだ多く残っている。

・既得権益と規制に縛られて日本ではフィンテックの普及が中国や欧米諸国に比べ遅れている。日本のキャッシュレス決済比率は18年時点で18.4%。韓国の89.1%、中国の60%と比べ随分、見劣りする。

・職場や銀行では決裁のためハンコが使われている。

・テレワークが進まない。総務省の調査では、企業などで働く15歳以上で過去1年間にテレワークをした経験がある人は6.7%。経験がない人は73.2%。経験がない人のうちテレワークを希望する人は15.9%、希望しない人は82.5%にのぼった。

菅首相のデジタル化で一番の注目はGIGAスクール

今回の新型コロナウイルスでは人の接触回数を制限しなければ感染の拡大を防げないためデジタル化の重要性が改めてクローズアップされた。この反省を受け、71歳の菅首相は自民党総裁や首相としての就任会見で強調したデジタル化のポイントは次の通りだ。

(1)解禁されたオンライン診療は続ける
(2)ポストコロナ時代の子供たちの教育のためにGIGAスクール(義務教育を受ける児童や生徒のため1人1台の学習者用パソコンと高速ネットワーク環境を整備する5カ年計画)を強力に進める
(3)役所に行かなくてもあらゆる手続ができる行政のデジタル化の鍵はマイナンバーカード。健康保険証や運転免許証としても使えるようにする
(4)複数省庁に分かれている関連政策を取りまとめて強力に進める体制としてデジタル庁を新設
(5)光ファイバーに500億円の予算を付けた

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円が軟化、介入警戒続く

ビジネス

米国株式市場=横ばい、AI・貴金属関連が高い

ワールド

米航空会社、北東部の暴風雪警報で1000便超欠航

ワールド

ゼレンスキー氏は「私が承認するまで何もできない」=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story