コラム

新型肺炎「理性と人間性を働かさなければ、現代の『ペスト』に敗北する」とミラノから感動の訴え

2020年03月02日(月)13時32分
新型肺炎「理性と人間性を働かさなければ、現代の『ペスト』に敗北する」とミラノから感動の訴え

コロナ騒ぎで空っぽ、ミラノのサンタンブロージュ教会(3月1日、Yara Nardi-REUTERS)

[ロンドン発]新型コロナウイルスの流行で休校になったイタリア北部ミラノにある高校の校長が「理性と人間性を働かせなければ、われわれは"ペスト"に負けしてしまう」と生徒に送った手紙が伊メディアに一斉に取り上げられ、感動を呼んでいる。

欧州で大流行したペストは1629年ミラノを襲った。翌年3月のカーニバルで検閲を緩めたとたん再びアウトブレイクし、1日最高3500人の死者を出した。感染が疑われる船を40日沖に停泊させた検疫「quarantine」はイタリアのヴェネツィア方言 「quaranta giorni(40 日)」に由来する。

2月25日付の手紙は「アレマン(ドイツ南西部)の人々がミラノに持ち込むことを健康裁判所が恐れていたペストが本当にやって来た。国中に広がり、多くの人が犠牲になった」というイタリアの作家アレッサンドロ・マンゾーニの『婚約者(いいなづけ)』31章の引用から始まる。

舞台は、ペスト禍に見舞われた1630年のミラノ。校長は「そこには全てが書かれています。外国人排斥、権威の衝突、最初の感染者探し、専門家への軽蔑、暴走する世論、馬鹿げた治療法、生活必需品の略奪、そして医療の危機」と言う。

『婚約者』は飢餓と戦争とペストに翻弄される民衆の姿を残酷なまでに描き出している。そこに神の救いはない。後の魔女狩りと同じように、毒を塗り込んだ布でペストを蔓延させたとして無実の罪を着せられた「ペスト塗り」裁判と拷問。

陰謀論と生贄と

人口の3分の1が亡くなったペストは目に見えない恐怖から「黒死病」「死の舞踏」とも呼ばれた。「ペスト塗り」に加え、ユダヤ人が井戸に毒を投げ込んだというデマ、異分子への弾圧と迫害、刹那的な欲望と祈祷。理性を失った人間は自分で自分を恐怖の淵へと引きずっていく。

校長は「混乱している今だからこそ『婚約者』を読んでほしい」「本の中にはミラノのいろんな通りの名前が出てくる。まるで今日の新聞を読んでいるような錯覚に陥る」「休校にするかどうかの判断は私にはつかないが、当局を信頼する」と語りかけている。

新型コロナウイルスの流行でイタリアでは2月末現在、1128人の感染が確認され、29人が死亡した。ヴェネツィア・カーニバルは中断され、ミラノやヴェネツィアのあるロンバルディア州やヴェネト州の町は封鎖、学校や大学は休校になった。校長は続ける。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com

ニュース速報

ワールド

米、マスクなどの医療物資は「国内で必要」 海外には

ワールド

WHOは中国中心主義、新型コロナ対応で「大失敗」=

ビジネス

航空業界2500万人の雇用喪失も、渡航禁止などで=

ワールド

G20エネルギー相会合を10日開催、世界的な協調促

MAGAZINE

特集:ルポ五輪延期

2020-4・14号(4/ 7発売)

「1年延期」という美談の下に隠れた真実── IOC、日本政府、東京都の権謀術数と打算を追う

人気ランキング

  • 1

    「コロナ失業」のリスクが最も高い業種は?

  • 2

    新型コロナの物資配給に「社会的距離ゼロ」のバングラデシュ

  • 3

    「コロナ後の世界」は来るか?

  • 4

    マスク姿のアジア人女性がニューヨークで暴行受ける

  • 5

    BCGワクチンの効果を検証する動きが広がる 新型コロ…

  • 6

    コロナで破局?ベビーブーム? 「自宅待機」で変わ…

  • 7

    在日ドイツ大使館、日本の新型コロナ検査数の少なさ…

  • 8

    イタリアを感染拡大の「震源地」にした懲りない個人…

  • 9

    コロナウイルスで露呈した中国の本性(一応、ジョー…

  • 10

    夏には感染は終息する、と考えていいのか? 

  • 1

    BCGワクチンの効果を検証する動きが広がる 新型コロナウイルス拡大防止に

  • 2

    「コロナ失業」のリスクが最も高い業種は?

  • 3

    台湾人だけが知る、志村けんが台湾に愛された深い理由

  • 4

    ブラジル大統領ロックダウンを拒否「どうせ誰もがい…

  • 5

    日本で新型コロナの死亡率が低いのは、なぜなのか?

  • 6

    日本が新型肺炎に強かった理由

  • 7

    ドイツ政府「アーティストは必要不可欠であるだけで…

  • 8

    人前で「コロナ」と言ったりマスクをするだけで逮捕…

  • 9

    中国からの医療支援に欠陥品多く、支援の動機を疑え…

  • 10

    新型コロナウイルスは、長年にわたるヒト-ヒト感染で…

  • 1

    一斉休校でわかった日本人のレベルの低さ

  • 2

    日本が新型肺炎に強かった理由

  • 3

    「コロナ失業」のリスクが最も高い業種は?

  • 4

    BCGワクチンの効果を検証する動きが広がる 新型コロ…

  • 5

    ドイツ政府「アーティストは必要不可欠であるだけで…

  • 6

    日本で新型コロナの死亡率が低いのは、なぜなのか?

  • 7

    韓国はなぜ日本の入国制限に猛反発したのか

  • 8

    新型コロナショック対策:消費税減税も現金給付も100…

  • 9

    フランスから見ると驚愕の域、日本の鉄道のあり得な…

  • 10

    豪でトイレットペーパーめぐって乱闘 英・独のスー…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!