コラム

新型肺炎「理性と人間性を働かさなければ、現代の『ペスト』に敗北する」とミラノから感動の訴え

2020年03月02日(月)13時32分

「頭を冷やしなさい。集団妄想に取りつかれてはなりません。適切な予防で十分です。普段通りの生活を送りなさい。この機会に散歩して、良書を読みなさい。家に閉じこもる理由もスーパーや薬局に殺到する理由もありません。マスクは病気になった人だけ着ければ良いのです」

「感染症は世界の隅から隅へと猛スピードで移動します。それが今日の脅威です。数世紀前も感染症は同じように世界中に広がったが、ほんの少しゆっくりしていただけです。感染症の大流行で一番危険なリスクの一つはマンゾーニやジョバンニ・ボッカチオが教えてくれます」

ボッカチオの作品『デカメロン』も大流行したペストの恐怖から逃れるため男女が退屈しのぎや好色話、悲劇に浸る物語だ。

仲間まで敵に見える

「社会生活に回る毒と市民生活の荒廃。見えない敵に脅かされていると感じる時、人間の本能はそこら中に敵がいるように錯覚させます。私たちと同じ仲間まで脅威として、また潜在的な攻撃者としてみなしてしまう危険があるのです」

校長は21世紀になっても感染症に慄く人間の心理は変わらないと説く。合理的思考をしなければ私たちは見えない恐怖を克服できない。

「14世紀と17世紀のペスト大流行に比べると、私たちには現代医学があります。合理的な思考を使いましょう。それが私たちの社会と人間性を守る歴史の遺産です。それができなければ"ペスト"が本当に勝利します。では近く学校で会いましょう」と校長は締めくくる。

日本でも安倍政権は信頼を失い、科学や医学への懐疑主義が吹き荒れている。その中心に大手メディアやエセ専門家がいるのは嘆かわしいことだ。日本人も校長の勧めに従って、休校や自宅療養・待機の機会を利用して『婚約者』や『デカメロン』に挑戦した方がいい。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米のベネズエラ介入は大惨事招く恐れ、ブラジル大統領

ビジネス

FRB議長候補ハセット氏、インフレ「極めて低水準」

ワールド

サンフランシスコ大規模停電、顧客約11万件で電力復

ワールド

欧州・ウクライナの米提案修正、和平の可能性高めず=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 7
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 8
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 9
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story