コラム

「国に『金くれ』とか言うなよ」という話? 再開された「表現の不自由展」は日本人の心を踏みにじるのか

2019年10月09日(水)18時30分

小・中学校の教科書から消えた従軍慰安婦

筆者は9月19日から10月7日までラグビーワールドカップ(W杯)日本大会の観戦を兼ね東京、横浜、大阪、神戸、博多、小倉、長崎、大分、尾道、今治を駆け足で回りました。ラグビーの日本代表はグローバル化が進んでいるのに、日本は同質性が高い保守的な社会であることを改めて痛感しました。

従軍慰安婦問題を巡る1993年の河野談話は「当時の朝鮮半島はわが国の統治下にあり、その募集、移送、管理等も、甘言、強圧による等、総じて本人たちの意思に反して行われた」として「心からお詫びと反省の気持ち」を表し「歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さない」と誓いました。

戦後50年(1995年)の村山談話は「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました」と改めて「痛切な反省の意」と「心からのお詫びの気持ち」を表明しました。

「子供たちが日本に誇りを持てる教科書で学べるようにする」という「新しい歴史教科書をつくる会」の調査(2014年9月)によると、小学校や中学校の教科書には「従軍慰安婦」や「慰安婦」の記述はなかったそうです。2017年4月に進学校の灘中が新規参入の「学び舎」の教科書『ともに学ぶ人間の歴史』を採択したところ抗議が殺到しました。

「『学び舎』の歴史教科書は『反日極左』の教科書であり、将来の日本を担っていく若者を養成するエリート校がなぜ採択したのか? こんな教科書で学んだ生徒が将来日本の指導層になるのを黙って見過ごせない。即刻採用を中止せよ」という内容だったそうです。

「日本型ファシズム」の正方形

灘中・灘高の和田孫博校長は歴史家、保坂正康氏著『昭和史のかたち』の「日本型ファシズム」の正方形を例に引き、こう指摘しています。

【第一辺】陸軍省新聞課による情報の一元化と報道統制→政府による新聞やテレビ放送への圧力が顕在的な問題に

【第二辺】国定教科書のファシズム化と教授法の強制→政治主導の教育改革が強引に進められる中、学校教育に対して有形無形の圧力

【第三辺】治安維持法の制定と特高警察による監視→安保法制に関する憲法の拡大解釈が行われるとともに緊急事態法という治安維持法にも似た法律が取り沙汰される

【第四辺】血盟団や五・一五事件→ヘイトスピーチを振りかざす民間団体が幅を利かせる

第三辺の「治安維持法」には同意し兼ねますが、日本の歴史は無謬だと信じる日本人が次第に増えている空気を強く感じました。SNS全盛の時代、保守的な傾向を持つ人には人工知能(AI)によるアルゴリズムが保守的なコンテンツばかりを抽出して表示するため、偏った保守化が急激に進んでいるようです。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com

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