コラム

英国はもう「帝国気取り」で振る舞うのは止めた方がいい 駐米大使が「トランプ大統領は無能」と酷評

2019年07月10日(水)08時30分

2017年1月、トランプとメイの共同会見に出席するためホワイトハウスに表れたダロック英大使 Carlos Barriake−REUTERS

[ロンドン発]来年の米大統領選で再選を目指すドナルド・トランプ大統領が英大衆紙にリークされた最高機密扱いの外交公電におかんむりだ。第二次大戦以来続く英米「特別関係」をつなぐキム・ダロック駐米英国大使がトランプ大統領を「無能」とこき下ろしていたからだ。

トランプ大統領は7日、米報道陣に「英国もダロック大使も祖国に対して十分に奉仕していない。米国はダロック大使を歓迎しない。もうたくさんだ」と不満をぶちまけた。続いてツイートで欧州連合(EU)離脱の混迷で辞任を追い込まれたテリーザ・メイ英首相にも八つ当たりした。

次期駐米大使はファラージ?

「私は英国とメイ首相の離脱交渉術には重大な懸念を抱いていた。彼女とそのスタッフはとんでもない混乱を作り出した。私は彼女にどうすべきかアドバイスした。しかし彼女は違う方法を選択した。私はダロック大使のことを知らない」

「ダロック大使は米国では好かれていないし、良くも思われていない。我々はもう彼のことを相手にしない。素晴らしい英国にとって歓迎すべきニュースは間もなく新しい首相が誕生することだ。私は先月の英国公式訪問を心から楽しんだ。最も感銘を受けたのはエリザベス女王だ」

EU離脱後に米国との自由貿易協定(FTA)を目指す英国にとって極秘公電の漏洩は外交的に何のメリットもない。メイ首相は7月23日に退任。駐EU大使も経験し、親EU派とみなされているダロック大使の任期は4年間で、来年1月に帰国する予定だ。

「合意があってもなくても10月31日までにEUを離脱する」と宣言するボリス・ジョンソン前英外相が次期首相に就任したら駐米英国大使にトランプ大統領のお気に入りの新党ブレグジット党、ナイジェル・ファラージ党首を据えてはどうかという声が早くも強硬離脱派からは上がる。

EUからの完全離脱を唱える強硬派のジョンソン氏もファラージ氏も、ドイツと単一通貨ユーロ圏の貿易黒字を米国の貿易赤字の元凶とみなすトランプ大統領と同じ穴の狢(むじな)。親EU派のダロック大使は、EU離脱後の英米FTA締結の障害と映っていた可能性がある。

今回漏洩したのは2年前からダロック大使が本国に最高機密扱いで打電した一連の外交公電で、閲覧できるのは首相官邸と外務省の小さなサークルに限られている。漏洩で大打撃を受けるのは、与党・保守党党首選でジョンソン氏と首相の座を争う穏健派ジェレミー・ハント外相とダロック大使本人だ。

笑うのは強硬派ジョンソン氏とファラージ氏。「政界のピエロ」と呼ばれるジョンソン氏が外相に就任した時、メイ首相は情報機関の極秘情報が同氏の手に渡るのを阻止しようとしたと報じられたばかり。今回のリークはジョンソン陣営による意趣返しなのだろうか。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ECB、金利の選択肢をオープンに=仏中銀総裁

ワールド

ロシア、東部2都市でウクライナ軍包囲と主張 降伏呼

ビジネス

「ウゴービ」のノボノルディスク、通期予想を再び下方

ビジネス

英サービスPMI、10月改定値は52.3 インフレ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story