コラム

非自由主義を宣言したハンガリーのオルバンが議会選挙で圧勝した理由

2018年04月19日(木)13時41分

移民を悪者にし、戦争で国土を失った屈辱と排外主義をあおって支持を集めるオルバン首相 Bernadett Szabo-REUTERS

[ロンドン発]ハンガリーの首都ブダペストで4月14日夜、スマートフォン(多機能携帯電話)の光をかざす約10万人が「オルバン・ビクトル首相(54)率いる与党フィデス・ハンガリー市民連合が議会選挙に圧勝したのは不公平な選挙制度が原因」「私たちが多数派だ」と抗議する大規模デモを行った。欧州連合(EU)旗とハンガリーの国旗が打ち振られた。

4月8日投開票の議会(1院制)選挙では欧州連合(EU)への懐疑と反移民を唱えるフィデス・ハンガリー市民連合が49%の得票率で、議会定数199の3分の2に当たる133議席を占めた。オルバン首相は通算4期目。ロマ排斥を訴える極右政党ヨッビクと合わせると議席占有率はなんと80%近くに達する。ロシア大統領選でウラジーミル・プーチン大統領が77%の得票率で4選を果たしたのと酷似している。

2006年以降のハンガリー議会選挙の結果をグラフにしてみた。

electionkimura180419.jpg

社会主義政権を崩壊させた民主化組織フィデス(青年民主連盟)の創設メンバーであるオルバン首相が復活したのは2008年の世界金融危機と密接に関係している。ハンガリーは国際通貨基金(IMF)やEU、世界銀行から約251億ドルの支援を受けた。ハンガリー通貨フォリントは暴落、外貨建ての住宅・自動車ローンが国民生活を逼迫した。成長率はマイナス6.4%に落ち込み、失業率は12%近くまで上昇した。

強権的な手法に批判

2013年秋、ロンドンにある有力シンクタンク、英王立国際問題研究所(チャタムハウス)で講演したオルバン首相はメディア規制や司法の独立の制限、過剰な中央集権化を強行し、EUから激しく批判されていた。筆者は「強権的なあなたの政治手法と強まるハンガリーの国民感情に西欧諸国は懸念している」と質問した。

オルバン首相は堂々とこう答えた。「第一次大戦でハンガリーはエネルギーや天然資源を生み出していた国土を失った。ハンガリーは内陸国で何の資源もない。生き残る道は生活の質を向上させるしかない。自分たちの手と頭脳を使って生産できるアウトプットにかかっている」

「人間が個人より重要で偉大な何か、国家のようなものを受け入れる準備がある時、すべてがうまくいく。国家に仕える、自分の国が好きであるのは良いことだ。個人的な利益を見直し、それよりも大きい何かのために犠牲を払う用意があるのは良いことだ。国民感情は危険ではない。私たちの能力を活用する前向きなエネルギーになる」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米FAA、主要空港の減便6%に 管制官不足が改善

ワールド

インド、輸出業者へ51億ドル支援 米関税で打撃

ビジネス

長期金利急騰、例外的なら「機動的に国債買い入れ増額

ワールド

ルビオ氏、米軍のカリブ海攻撃巡る欧州の批判に反論 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 4
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 7
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 10
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story