コラム

バラバラ死体事件に揺れるイタリア総選挙 ベルルスコーニ元首相がキングメーカーに

2018年02月08日(木)13時30分

イタリアは総選挙の最中にある。北部同盟のマッテオ・サルビーニ書記長は事件と距離を置きながら「祖国の安全と社会正義を取り戻すため、もう待てない。一刻も早く政府を樹立する」と語気を強めた。

北部同盟と中道右派連合を組む「フォルツァ(頑張れ)・イタリア」率いるシルビオ・ベルルスコーニ元首相(81)は「社会の爆弾が爆発寸前だ」「ブリュッセルも国際社会もあてにはできない。イタリアに住む権利のない60万人の不法移民を強制退去させる」と表明した。

kimura20180208112402.png

kimura20180208112403.jpg

若者の失業率33%、政府債務は国内総生産(GDP)の132%、低成長の泥沼......。問題が山積するイタリアの総選挙だが、最大の争点は難民問題だ。2016年、北アフリカから地中海を渡ってシチリア島などに漂着した難民は18万人を超えた。

欧州連合(EU)は対岸のリビア政府がボート難民を拘束して投獄するのを支援した結果、昨年、難民の数は12万人を切った。しかしイタリアやギリシャに滞留する難民10万人をEU加盟国に配分する計画は3万1500人しか実行されておらず、イタリアの負担感は強まっている。

世論調査では、フォルツァ・イタリアと北部同盟を中心とした中道右派連合は支持率40%に迫り、あと少しで過半数を獲得する勢いを見せる。パメラさんの事件が最後のひと押しになるかもしれない。EUの政策に批判的な新興政党「五つ星運動」は議会第1党になっても、中道右派連合に遠く及ばない。

kimura20180208112404.png

イタリアの首相を4期も務め、「ブンガブンガ」と呼ばれるパーティーで裸の女性に囲まれたメディア王ベルルスコーニは脱税で有罪となったため公職には就けない。総選挙で勝利しても首相にはなれないが、キングメーカーにはなれる。次の首相はベルルスコーニの傀儡(かいらい)というわけだ。

1月下旬、EUを訪れてジャンクロード・ユンケル欧州委員長と会談した際「イタリアをポピュリズムから救う男」と報じられた。ベルルスコーニが肯定的に再評価されること自体、イタリアと、引いてはEUの置かれている危機的な状況を物語っている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ安全保障に欧州主導の平和維持部隊 10カ

ビジネス

米ボストン連銀総裁、FRB利下げ支持も「ぎりぎりの

ビジネス

米NY連銀総裁「FRBは今後の対応態勢整う」、来年

ビジネス

カナダCPI、11月は2.2%上昇で横ばい コアイ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 6
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    「職場での閲覧には注意」一糸まとわぬ姿で鼠蹊部(…
  • 9
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 10
    世界の武器ビジネスが過去最高に、日本は増・中国減─…
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 5
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story