コラム

迷走ブレグジット、英国の未来は「元気印のレズビアン」に委ねられた

2017年06月14日(水)18時15分

スコットランド保守党党首のルース・デービッドソンはよく笑う Russell Cheyne-REUTERS

<「勝者なき英総選挙」のなかで「大勝利」を収めたのがスコットランド保守党党首のルース・デービッドソン。同党の13議席がなければメイは首相の座に留まれなかった。今後の政局のカギを握るキーパーソンだ>

よもやの過半数割れ

[ロンドン発]イギリスの欧州連合(EU)離脱交渉の行方を占う総選挙が6月8日に行われ、首相テリーザ・メイは目論んだ圧倒的過半数を獲得できず、よもやの過半数割れを喫した。イギリスの有権者は離脱交渉の舵取りをメイに任せたものの、与党・保守党の強硬派が主導してきたハード・ブレグジット(単一市場と関税同盟からも離脱)に難色を示した、と結果論を語るのは簡単だ。

【参考記事】英総選挙で大激震、保守党の過半数割れを招いたメイの誤算
【参考記事】驚愕の英総選挙、その結果を取り急ぎ考察する

投票の1週間前、英世論調査協議会会長のストラスクライド大学教授ジョン・カーティスと元内閣府首席エコノミストのキングス・カレッジ・ロンドン教授ジョナサン・ポルトに「最大野党・労働党党首ジェレミー・コービンの人気が急上昇しているのは有権者がソフト・ブレグジット(単一市場と関税同盟へのアクセスをできるだけ残す)を望んでいるからか」と水を向けると、「選挙キャンペーン、マニフェスト(政権公約)、教育や医療など内政問題が大きい」という分析だった。

【参考記事】「認知症税」導入で躓いた英首相メイ 支持率5ポイント差まで迫った労働党はハード・ブレグジットを食い止められるか

EU離脱を党是とする英国独立党(UKIP)の分析で高い評価を受けていたケント大学教授マシュー・グッドウィンに至っては5月下旬「コービン党首の下で労働党が得票率38%に達するようなことがあれば、ブレグジットに関する自分の新著を食べる」とまで豪語していた。総選挙でコービン労働党の得票率は40%となり、グッドウィンが新著をムシャムシャ食べる姿が全国に放送された。メイやコービンだけでなく、その筋の専門家もイギリスの世論を読めていなかった。

勝者は誰?

一体、この総選挙の勝者は誰なのか。主な政党の内情を見てみよう。

【メイ保守党】13議席減、地滑り的勝利を確信して早期解散に踏み切ったものの、過半数割れして、これまでのハード・ブレグジット路線を見直し

【コービン労働党】30議席増、若者を中心にコービン人気を巻き起こしたが、政権奪取にはまだまだ遠いことが浮き彫りになった

【スコットランド民族党(SNP)】21議席減、前党首アレックス・サモンドが落選。2回目のスコットランド独立住民投票に大きなブレーキ

【自由民主党】4議席増、EU残留を選択肢の一つとする国民投票の再実施を掲げるも、元党首ニック・クレッグが落選するなど、得票率はダウン

【UKIP】唯一の議席を失う。得票率は12.6%から1.8%に激減。党首交代

【民主統一党(DUP)】北アイルランドのプロテスタント強硬派政党、2議席増。メイ政権の過半数維持のため閣外協力を約束するも、プロテスタント系とカトリック系の合意による北アイルランド和平が綻ぶ恐れも

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 6
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 7
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story