コラム

迷走ブレグジット、英国の未来は「元気印のレズビアン」に委ねられた

2017年06月14日(水)18時15分

「保守党不毛の地」で生まれた勝者

勝者なき今回の総選挙で一躍、脚光を浴びた政治家がいる。「キックボクシングを愛好するレズビアン」(英大衆紙デーリー・メール)こと、スコットランド保守党党首のルース・デービッドソン(38)だ。保守党の首相マーガレット・サッチャーが1980年代に炭鉱閉鎖、労働組合潰しの大ナタを振るってから、深刻な経済的ダメージを受けたスコットランドはずっと「保守党不毛の地」と呼ばれ続けてきた。1997年総選挙で議席をすべて失ったあと、1議席を死守するのがやっとだった。

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スコットランド保守党党首ルース・デービッドソン Masato Kimura

それが今回12議席増の13議席。昨年のスコットランド議会選で議席を倍増、今年5月の統一地方選でも躍進を遂げていたとは言え、予想を上回る「大勝利」だった。2014年の住民投票で否決されたにもかかわらず、独立に突き進むSNPへの批判票がスコットランド保守党に集まったからだ。

元BBC記者のデービッドソンが同性愛のパートナーと公の場に姿を現し、メディアの前で戦車の主砲にまたがったり、民族楽器バグパイプを吹いて見せたりする「元気印」をアピールしていなければ、スコットランド保守党の復活はあり得なかった。総選挙でもステージに飛び上がり、隣のメイがそれを真似した場面が印象的だった。

スコットランドの13議席のおかげでメイは首相の座から滑り落ちずに済んだ。総選挙後の閣議に出席したデービッドソンは「大切なのは、我が国の経済を最優先にブレグジットを進めるということだ。保守党はそれを実行すると信じている」とハード・ブレグジットからソフト・ブレグジットに舵を切るよう要求した。中絶や同性婚に反対するDUPとの閣外協力についても、デービッドソンはメイから同性愛者の権利は守るとの言質を得た。

ソーシャル・コンサーバティブの色彩を強める保守党とは一線を画す開放的なデービッドソンの周囲では「次の保守党党首に」という声が早くも上がっているが、本人はSNP党首ニコラ・スタージョンからスコットランド自治政府首相の座を奪うことに焦点を定めている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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