コラム

テレワークによるメンタルヘルス不調と生産性

2021年08月05日(木)20時27分

一方、テレワークのデメリットとしては、生活リズムが乱れる可能性、コミュニケーション不足による不安・孤立感、勤務時間管理が難しいことから長時間労働の傾向、自宅のテレワーク環境による業務効率の低下、運動不足による自律神経の乱れなどを挙げることができる。

■従業員にとってのテレワークのメリット・デメリット
2021-08-Table.jpeg

既に企業はこのようなテレワークのデメリットを解決するために様々な工夫をしている。まず、コミュニケーション不足の問題を解消するために、一部の企業では定期的な間隔(例えば1、2週間に1回程度)で、継続的に1on1ミーティングをオンラインで行うなど、上司が部下の体調を確認するための対策を実施している。また、従業員が長時間労働に陥らないよう、在宅勤務に有効な勤怠管理システムを導入したり、時間外労働の条件などを取り決めておいたりする企業も増えている。

こうした取り組みは中小企業ではなかなか進んでいないのが現状だが、中小企業のテレワーク関連経費を補助する自治体も現れている。例えば、東京都は、感染症の拡大防止と経済活動の両立に向けて、テレワークを更に定着させるために5月10日より都内企業のテレワーク環境整備を支援する助成金の募集を開始すると発表した。助成金は常用する労働者が2人以上30人未満の企業の場合は最大150万円(助成率は3分の2)が、常用する労働者が30人以上999人以下の企業の場合は最大250万円(助成率は2分の1)が支給される。

健康経営を自宅まで拡大

従業員の健康管理に関しては、今まで企業内で実施していた健康経営の範囲を従業員の自宅まで拡大して実施するなどの工夫が必要だ。例えば運動不足対策として、eラーニングでエクササイズのビデオを提供するといった例もある。政府が労働力不足を解決するために働き方改革を段階的に推進する中で、企業は従業員の多様な働き方を実現し、メンタルヘルスに対する対策を含む健康経営に取り組み、そして労働力を確保すると共に従業員の離職防止に努める必要がある。

新型コロナウイルス感染症の罹患防止対策として導入が進んだテレワークがニューノーマルとなるなか、企業にとっては若手を含めた従業員の心身の不調をいち早く見つけてケアする対策の重要性が高まっている。今後、従業員のメンタルヘルス不調に対する対策の遅れが企業経営にとって大きな損失や業績悪化、労働力不足につながらないよう、より早めに対策を行う必要があると考えられる。

※本稿は、「テレワークがもたらす職場のメンタルヘルスケアの変化について」『基礎研REPORT(冊子版)』2021年8月号[vol.293]を加筆・修正ものです。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story