コラム

コロナ感染再拡大でさらに深刻化する世代間の葛藤

2020年09月24日(木)17時14分

集団感染の原因になってしまった反政府集会(8月15日、ソウル) Kim Hong-Ji-REUTERS

<クラブで集団感染を起こした若者と政治集会で集団感染を起こした高齢者が非難合戦>

韓国における新型コロナウイルスの感染拡大が長期化している。韓国国内の新規感染者数は2020年4月にはいったんゼロになったものの、2度の大きな集団感染が原因で現在は毎日100人前後の新規感染者が発生している。

ワクチンや治療薬が普及するまでは感染を完全に防ぐことは難しいものの、徹底した検査と隔離、そして情報公開という、いわゆる「K防疫」で新型コロナウイルスに対応している韓国でなぜ2度も大きな集団感染が発生したのだろうか?

集団感染の原因はいろいろあるとされているが、韓国における集団感染の最も大きな要因は「気の緩み」と「反文在寅」ではないかと考えられる。特に、「気の緩み」は若者を中心に、そして「反文在寅」は高齢者を中心に広がった。

先に集団感染の原因となったのは若者である。彼らは密閉された居酒屋やクラブ等に出入りし、酒を飲んだり、踊ったりするようになった。新型コロナウイルスの感染者が減り、若者の致死率が低いことがマスコミから報道されると、若者は新しい伝染病の恐怖から解放されたのである。マスクを着用することも、社会的な距離を確保することも、彼らには重要でなくなった。その結果、5月6日に梨泰院のクラブ等で集団感染が発生し、感染が広がった。

若者と高齢者の立場が逆転

韓国政府は、感染者のスマートフォンやクレジットカードの使用履歴、監視カメラなどの情報を利用して感染者の情報を追跡したものの、クラブを利用した若者の多くが虚偽の連絡先を記載したため、連絡がとれず検査や隔離措置を行うことに苦労した。

また、集団感染が発生した梨泰院のクラブの一部が同性愛者向けの店であると知られたことから、店を利用した人たちが身を隠し、自主的に検査を受けず、防疫当局を煙に巻いた。またクラブを訪れていた塾の講師から生徒らに感染するなど、感染は地域社会まで再拡大した。文在寅政府が誇っていた「K防疫」が一瞬で崩れてしまったのだ。

感染が地域社会まで急速に広がると、高齢者は若者の無分別な行動を強く批判した。「最近の若者はどうなっているんだ!」、「生意気で、本当に利己主義だ」、「選挙にも参加せず、国のために何の役にも立たない」等、怒りや嘆きの声が絶えなかった。

しかしながら、梨泰院の集団感染が発生してから3ヶ月が過ぎた時点で非難の矛先は高年齢者に向けられることになった。彼らが集団感染の原因になったからである。高齢者が多く参加する複数の保守系団体は、8月15日にソウルの光化門広場で文在寅大統領の退陣を要求する集会に参加した。人と人の間の距離は近く飛沫感染のリスクが高かったものの、数万人の参加者は声を高め、文在寅政権を批判した。酒を飲む人もあれば歌に合わせて踊る人もいた。光化門広場は高年齢者のクラブに変わってしまった。政府からの検査要求にも応じない高齢者が多かった。その結果、感染は全国に広がり始めた。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「ウクライナはモスクワ攻撃すべきでない」

ワールド

米、インドネシアに19%関税 米国製品は無関税=ト

ビジネス

米6月CPI、前年比+2.7%に加速 FRBは9月

ビジネス

アップル、レアアース磁石購入でMPマテリアルズと契
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story