コラム

高齢者がより活躍できる社会を構築するには──同一労働同一賃金に基づいた処遇の改善や多様な定年制度を

2020年01月23日(木)15時00分

70歳までこれを続けろと? Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<労働力不足や年金支給開始年齢の引き上げとともに70歳までの雇用を確保する政府の動きが加速しているが、企業の多くは人件費増を避けるために60歳で雇用契約を終了し、新しい条件で再雇用する制度を選択している。この方法は、企業にとっても働き手にとってもデメリットが大きい>

日本政府が70歳雇用に動き出す

定年延長に対する日本政府の動きが本格化している。政府は2019年5月に開催された未来投資会議(議長・安倍首相)で、希望する高齢者に対し70歳までの雇用確保を企業に求める高年齢者雇用安定法の改正案の骨格を示した。現行法では、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律第9条第1項に基づき、定年を65歳未満に定めている事業主は、雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するために、1)定年制の廃止、2)定年の引上げ、3)継続雇用制度(再雇用制度)の導入のうち、いずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を実施することを義務化している。

今回の改正案では、企業が労働者を同じ企業で継続して雇用することを義務化した上記の三つの選択肢に加えて、社外でも就労機会が得られるように、4)他企業への再雇用支援、5)フリーランスで働くための資金提供、6)起業支援、7)NPO活動などへの資金提供という項目を追加した。定年延長による人件費増を懸念する企業に配慮した措置だと言える。

また、政府は2019年9月に社会保障制度改革の司令塔となる「全世代型社会保障検討会議」(議長・安倍首相)の初会合を開いた。検討会議では、今後70歳までの就業機会の確保を含めて、60~70歳の間で選べる年金受給開始年齢の70歳超への選択肢拡大、疾病・介護予防の推進、後期高齢者の窓口負担の引き上げ、介護保険サービスの自己負担の引き上げなどを議論する予定である。

70歳雇用推進の背景

では、なぜ政府は70歳雇用を推進するなど高齢者の労働市場参加を奨励する政策を実施しようとしているのだろうか。その最も大きな理由の一つは少子高齢化の進展による労働力不足に対応するためである。2018年2月1日現在の日本の総人口は1億2,660万人で、ピーク時の2008年12月の1億2,810万人に比べて150万人も減少しており、2065年には8,808万人まで減少すると予想されている。一方、労働力人口は、女性や高齢者の労働市場への参加が増えたことにより、2013年以降はむしろ増加している。しかし、15〜64歳の生産年齢人口の減少は著しい。日本における2016年10月1日現在の15〜64歳人口は、7,656万2,000人と、前年に比べ72万人も減少した。15〜64歳人口の全人口に占める割合は60.3%と、ピーク時の1993年(69.8%)以降、一貫して低下している。さらに、昨年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産むと見込まれる子どもの数)は1.42で改善されず、1年間に産まれた子どもの数は86.4万人で、統計を取り始めて以来初めて90万人を割ることが厚生労働省の推計で明らかになった。死亡者数から出生数を差し引いた人口の自然減は過去最大の51万2千人で、13年連続で人口が減少することが予想されている。このままだと15〜64歳の生産年齢人口はさらに減少するだろう。

15~64歳人口の対前年比増減数と総人口に占める割合の推移
graph01.jpg

注)2010年における15~64歳の人口が増えた原因として、国勢調査による人口のうち、年齢不詳の人口を各年齢別にあん分したことが挙げられる。
出所)e-stat「人口推計:長期時系列データ」より筆者作成。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 8
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story