コラム

「雇用を守る=企業を守る」はもう機能しない...いま本当に守るべきは「労働者」だ

2022年12月21日(水)08時04分
雇用危機イメージ画像

ILLUSTRATION BY WENMEI ZHOU/ISTOCK

<戦後日本は不景気になると企業支援を通じて雇用を守ってきたが、こうした形のセーフティーネットはうまく機能しなくなっている>

コロナ危機は、日本が抱えていた賃金や雇用の構造的問題を浮き彫りにした。日本では、「雇用を守ること=企業を守ること」であり、雇用政策はもっぱら企業支援という形で提供されてきた。だが、非正規労働者や零細企業の労働者はこの枠組みには入らず、国民の間には大きな分断が生じている。

急激な経済状況の変化に対して、政府が国民生活を支援することは、先進国としては当然の政策と見なされており、戦後日本の場合、それは企業を通じて行うことが暗黙の了解となっていた。不景気になると、雇用を守るため「企業を支援せよ」という声が大きくなり、政府もこれに応える形で各種の企業支援策を実施してきた。

いわゆるサラリーマンという雇用形態が拡大し、社会が画一的だった昭和の時代までは、こうした企業を通じた労働者保護はうまく機能した。だが1990年代以降、急速に広がってきたグローバリゼーションやライフスタイルの多様化によって、企業に全面的に依存する従来型のセーフティーネットはうまく機能しなくなっている。

業績低迷に悩む企業は、非正規社員を増やすという安易な選択を行い、雇用の調整弁として利用するようになった。一方、大企業の正社員は既得権益化し、前例踏襲の業務慣行によって企業のイノベーションを阻害している。この状況で経済危機が起きた場合、従来と同様の企業支援策だけにとどまっていては、支援の枠組みから除外される人が多く出てくることになる。

コロナ危機に際して政府は、これまでの方針を大転換し、国民に対して一律に給付金を配るという施策を行った。一部からは単なるバラまきであるとの批判も出たが、長年、慣れ親しんだ企業を支援するという発想から抜け出し、国民を直接支援する政策に舵を切ったことは大きな変化と考えてよいだろう。

企業は保護するのに労働者は保護しない

本来、企業というのは常に新陳代謝を図るべき存在であり、時代に追い付けなかった企業は市場から退出してもらうのがスジである。一方、労働者というのは保護されるべき存在であり、簡単に身一つで路上に放り出してよいものではない。

ところが日本の場合、過剰に企業を保護する一方、解雇されてしまった労働者は何も支援されずに放置されるという、本末転倒な状況となっている。このため多くの国民が会社をやめることに恐怖感を感じており、これが人材の流動化を阻害している。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

イタリア、中銀の独立性に影響なしとECBに説明へ 

ワールド

ジャカルタの7階建てビルで火災、20人死亡 日系企

ワールド

韓国国民年金、新たなドル調達手段を検討 ドル建て債

ビジネス

台湾輸出、11月は15年半ぶりの伸び AI・半導体
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 9
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 10
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story