コラム

量的緩和に財政出動にMMTまで...そんな単純な手法で日本経済が良くなるはずがない

2022年04月15日(金)17時28分
下落傾向の日本経済

ATAKAN/ISTOCK

<派手で分かりやすいマクロ政策ばかり注目されるが、これまで怠ってきた数々のミクロ的課題の解決を地道に進めなければ日本経済を立て直すことはできない>

世界的な物価高騰に円安が加わり、日本経済がさらに厳しい状況に追い込まれている。「失われた30年」を通じて、国内では壮大なマクロ経済政策にばかり注目が集まり、ミクロで地道な改革がおざなりにされてきた。だが、小さな改革を着実に実行できなければ、マクロ政策は十分な効果を発揮しない。

一定以上の経済規模を持つ先進国において、30年間もほぼゼロ成長が続くというのは、ある種の異常事態である。この間、日本人の生活水準は大きく低下しており、国民の不満は高まる一方だ。こうした社会情勢を反映してか、政府も壮大なマクロ政策ばかりを、経済政策として打ち出す傾向が顕著となっている。

アベノミクスがスタートした当初は、デフレさえ脱却すれば日本経済は劇的に復活するとの声が高まり、前例のない規模で国債を買い入れる量的緩和策が実行された。ベースマネーの供給が増えたことで円安と株高は実現したが、実体経済は回復しなかった。最近では、政府債務の水準に関わりなく、財政出動を実施できるという主張が注目を集めるなど、大規模な財政出動を行えば景気回復を実現できるという主張が目立つようになってきた。

そもそも量的緩和策という金融政策は、90年代に実施され、十分な効果を発揮しなかった大型財政出動を否定する形で登場してきた理論であり、結局のところ一周回って、再び財政出動に注目が集まるという皮肉な状況となっている。

経済政策の効果は状況によって変わる

財政出動も金融政策も、既存の経済学においてその効果が実証されている手法であり、両者が何らかの形で景気回復に効果があることは分かっていることである。だが、同じ経済政策でもそれを適用する経済圏の状況によってその効果はまちまちである。

マクロな政策とミクロな政策は、基本的にはバラバラなものだが、最終的に両者はつながっており、ミクロな改革を着実に実施できない社会では、マクロ政策は十分に機能しない。70年代のアメリカが経験したスタグフレーションはまさにその典型であり、アメリカ経済が本格的に復活したのは、同国の社会構造が大きく変化したレーガン政権以降だった。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、停戦違反を非難 イラン以上にイスラエル

ワールド

ガザの食料「兵器化」、戦争犯罪に該当 国連が主張

ワールド

ドイツ、25年度予算案を閣議了承 投資と利払い急増

ビジネス

独IFO業況指数、6月は予想以上に上昇 景気底入れ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり得ない!」と投稿された写真にSNSで怒り爆発
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    細道しか歩かない...10歳ダックスの「こだわり散歩」…
  • 6
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 7
    EU、医療機器入札から中国企業を排除へ...「国際調達…
  • 8
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 9
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 10
    「水面付近に大群」「1匹でもパニックなのに...」カ…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 9
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 10
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story