コラム

現在のインフレを、単なる「コストプッシュ型」と思考停止していては対策を誤る

2022年02月02日(水)17時20分
オイルショック

AP/AFLO

<1次産品の値上がりだけに目を向けていては、広範囲なインフレがもたらされる真の構図を見誤ることに。オイルショック当時もそうだった>

日本でも物価上昇(インフレ)が顕著となりつつあるが、その原因をめぐって早くも議論が混乱している。今、起こっている現象を適切に理解できなければ、正しい処方箋を得ることはできない。日本ではいつものことかもしれないが、冷静な議論が必要だ。

総務省が発表した2021年12月の消費者物価指数の上昇率は前年同月比プラス0.8%と大幅な伸びとなった。企業の仕入れ価格に相当する日銀の企業物価指数は11月にプラス9.0%と40年ぶりの水準を記録し、最終製品の価格がさらに上昇する可能性が高まっている。

現在、進んでいるインフレは原油価格や食糧価格が高騰し、輸入物価が上昇することで発生する、いわゆる「コストプッシュ・インフレ」だが、これだけが原因で広範囲に物価が上昇するわけではない。

各国はリーマン・ショックに対応するため、大規模な量的緩和策を実施してきた経緯があり、既に市場には大量のマネーが供給されている。量的緩和策という貨幣的要因に1次産品の価格上昇というコスト要因が加わったことで、全世界的にインフレが加速していると解釈したほうが自然だ。

広範囲なインフレというのは、大抵の場合、コスト要因に貨幣的な要因が加わることで発生しており、これを単なるコスト要因によるものと解釈すると事態を見誤る。

1973年のオイルショックの背景

全世界的なインフレと言えば、1973年のオイルショックを契機とした物価上昇が思い浮かぶが、このインフレもオイルショックだけが理由というわけではない。

産油国による原油価格の大幅な引き上げが直接的な原因だったことは間違いなく、正解が決まっている学校のテスト的に考えれば、典型的なコストプッシュ・インフレということになる。しかしながら、現実の社会はそれほど単純ではない。

オイルショックの2年前には金とドルの兌換停止、いわゆるニクソン・ショックと呼ばれる出来事があった。多くの人は忘れているのかもしれないが、突然の兌換停止によってドルの価値は激しく減価。ドイツと日本の中央銀行は、金融危機防止の観点から市場に対して大規模な流動性の供給を実施せざるを得なかった。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中独首脳会談、習氏「戦略的観点で関係発展を」 相互

ビジネス

ユーロ圏貿易黒字、2月は前月の2倍に拡大 輸出が回

ビジネス

UBS、主要2部門の四半期純金利収入見通し引き上げ

ビジネス

英賃金上昇率の鈍化続く、12─2月は前年比6.0%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 2

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 3

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 4

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 5

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 6

    韓国の春に思うこと、セウォル号事故から10年

  • 7

    キャサリン妃は最高のお手本...すでに「完璧なカーテ…

  • 8

    中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界が…

  • 9

    中国の「過剰生産」よりも「貯蓄志向」のほうが問題.…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 4

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 5

    ドイツ空軍ユーロファイター、緊迫のバルト海でロシ…

  • 6

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 7

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 8

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 9

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 10

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story