コラム

岸田首相が訴えていた「金融所得課税」の強化は、やめておいて大正解

2021年10月19日(火)20時58分

現役時代に1000万円以上の年収があっても、年金生活に入ると収入は一気に下がる。3000万円程度の有価証券を保有していても、有価証券から得られる配当収入は100万円に満たない。

定年後に再就職していなければ、年金と合わせてようやく世帯年収300万円台を維持しているケースも多いと考えられる。資産はある程度持っているものの、年金以外に主たる収入源がない高齢者が多く、結果として年収1000万円以下の有価証券保有者の比率が高くなってしまうのだ。

金融所得課税の多くは源泉徴収なので年収で税額を調整するのは難しい。しかし一律で課税すれば、むしろ中間層にとって大増税となってしまう。しかもその多くが高齢者となれば、政治的ハードルは高くならざるを得ない。

加えて課税が強化された場合、保有者の一部は株式を売却するので、株価には確実にマイナスの影響が及ぶ。富裕層の一部は資産を海外に移す可能性があり、期待どおりの税収が見込めないことも考慮に入れる必要があるだろう。金融所得課税の強化というのは、想像よりも難しいというのが現実だ。

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プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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