最新記事

新型コロナウイルス

所得格差と経済成長の関係──再配分政策が及ぼす経済的影響

2021年9月13日(月)14時28分
鈴木 智也(ニッセイ基礎研究所)
コロナ禍ビジネスマン(イメージ)

外回りの途中か、カフェで休憩するビジネスマン(9月7日、東京) Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<コロナで露呈し、拡大した貧富の格差を各国はどう是正するのか>

*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポート(2021年8月27日付)からの転載です。

1――はじめに

コロナ禍による格差拡大への懸念は、世界共通の課題として意識されつつある。世界に先駆けて景気回復が進んだ米国では、富裕層に対するキャピタルゲイン課税率を引き上げ、その徴収分を子育てや教育支援などに充てようという構想が議論されている。日本では、コロナ感染の抑止という緊急課題への対応を未だ余儀なくされているが、その課題に目途が立つ頃には、生活困窮者向けの緊急支援策が、格差対応という長期的な対応に置き換わっていくものと思われる。これから実施される衆議院議員選挙では、格差是正に向けた「所得分配政策」が主要議題の1つになるだろう。

本稿では、コロナ禍で起きている所得格差の現状について整理し、倫理的な側面から語られることの多い格差問題について、経済学的な視点から捉え直し、所得格差が理論的にどのように解釈されているのかを読み解く。【鈴木 智也(ニッセイ基礎研究所)】

2――「K字型」が示唆するもの

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う影響は、濃淡をもって社会に広がっている。コロナ禍の今、観察できる格差は「資本市場と実体経済の回復格差」「実体経済における業種間格差」の2つがある。これらの事実は、個人の「所得格差」が拡大していく環境にあることを示唆している。

1|コロナ禍で見られる2つの格差

1つ目の「資本市場と実体経済の回復格差」は、景気反転局面で生じる資産効果による格差である。[図表1]は、日経平均株価と有効求人倍率の月次変化を見たものであるが、金融取引の行われる資本市場は4月頃には回復をはじめ、すでにコロナ前の水準を回復する一方、商品やサービスの生産販売に対して対価を支払う実体経済は、有効求人倍率の推移が示すとおり、依然コロナ前の水準とは距離が開いている。これは、金融市場が先々の景気を先読みする性質を反映した動きであり、景気反転局面でよく見られる現象だ。コロナ禍においても、同様の事態が進行していることを示している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、FRBが金利据え置き

ビジネス

FRB、5会合連続で金利据え置き トランプ氏任命の

ビジネス

情報BOX:パウエル米FRB議長の会見要旨

ワールド

銅に50%関税、トランプ氏が署名 8月1日発効
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 3
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い」国はどこ?
  • 4
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 5
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 6
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 9
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中