コラム

平井デジタル相の「恫喝」発言を、このまま個人の問題で終わらせてはいけない

2021年07月07日(水)11時49分
平井卓也デジタル改革担当相

ISSEI KATO-REUTERS

<オリパラアプリをめぐる平井大臣の疑惑は、個人の問題では収まらない構造的な問題が表面化したものと捉えるべき>

平井卓也デジタル改革担当相が、東京五輪向けのアプリ発注に関して、受注企業への恫喝を示唆する発言を行ったことが問題視されている。平井氏への批判が高まっているが、少し視点を変えるとさまざまなことが分かってくる。

発言は4月に行われた内閣官房IT総合戦略室における幹部会議のもので、本来は非公開だが、音声が外部に流出した。平井氏は「NECには死んでも発注しない」「象徴的に干すところを作らないとなめられる」「脅しておいたほうがいい」などと発言しており、相手を恫喝するよう職員に指示したとも受け取れる。

直接、事業者を脅したわけではないが、大臣として不適切であることは言うまでもない。だが、この発言を少し角度を変えて眺めてみると、さまざまな解釈ができる。

「事業者からなめられる」「脅しておいたほうがよい」といった言葉は、裏を返せば、官庁側がIT事業者をうまくコントロールできていない現状をうかがわせる。実際、官庁側がIT事業者を制御できず、一部で法外な支出を強いられているというのは長年、問題視されてきたことである。

2001年には公正取引委員会が「1円入札」問題について調査し「注意」を行ったこともある。「注意」は独占禁止法に基づく公式な処罰ではないが、それに準じる重みを持つ。

平井氏はIT業界を知り尽くした人物

1円入札とは、IT事業者がシステムの入札の際に1円で落札してしまい、その後、割高な価格で受注を繰り返して利益を得る手法である。システムはひとたび特殊な技術仕様にしてしまうと、これに沿って開発や運用を続けるしかなくなり、他の事業者と競争させることが難しくなる。

官庁側が技術に疎いことを逆手に取り、一部事業者が長年にわたって同一システムの受注を独占できるよう工作していたのだ。当時、この問題は国会でも追及されたが、自民党内で率先して改革に取り組んでいたのが、当時まだ新人議員だった平井氏である。

この時代は、公共事業の予算削減で建設利権が縮小する一方、IT予算は毎年、増額される状況だった。新しい巨大政治利権としてITが注目され始めており、「ITゼネコン」などという言葉も生まれていた。つまり平井氏はIT業界の表も裏も全て知り尽くした人物ということになる。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、最高値更新 足元は4万5

ワールド

金正恩氏が無人機試験視察、AIによる強化を命令=朝

ワールド

全国CPI、8月は前年比+2.7%に鈍化 市場予想

ワールド

仏で財政緊縮巡りデモ・スト、100万人参加と労組 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story