コラム

ソフトバンクの激しすぎるV字回復...新時代についていけない企業は淘汰される

2021年05月25日(火)21時24分
ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長

TORU HANAIーREUTERS

<9615億円の赤字から純利益5兆円に。この数字が示す企業の在り方の劇的変化と、企業間の格差拡大>

ソフトバンクグループ(SBG)が、過去最大の赤字から一転して5兆円の純利益を上げた。日本企業としては前人未到の水準であり、同社は特異な存在となりつつある。

SBGが発表した2021年3月期決算は、純利益が4兆9879億円という驚異的な数字になった。昨年度は9615億円の赤字だったことを考えると、V字回復どころではない。

だが不思議なことに、同社の売上高は約5兆6000億円しかなく、純利益の金額が売上高に迫る状況となっている。一般的な事業会社の決算書を見慣れている人は不可解に思うだろうが、このような数字になっている最大の理由は、SBGが事実上の投資会社に変貌しているからである。

同社は孫正義会長兼社長が1981年に創業した企業だが、当初は出版やソフト流通を手掛ける地味な事業会社であった。ところが90年代以降、米ヤフーへの投資などをきっかけに、次々とM&A(合併・買収)を仕掛け、めまぐるしく業態を転換。2010年代には日米の有力携帯電話会社を傘下に持つ巨大通信会社となった。

SBGが巨額利益を上げる背景

10年代後半には10兆円規模の投資ファンドを立ち上げ、ウーバーなど先端的なIT企業に巨額資金を投じる投資ファンドとしての色彩を強めている。今となっては傘下の携帯電話会社も事実上、投資先の一部と考えてよいだろう。

投資会社の場合、時価会計においては投資損益を都度、計上する必要があるため、実際に換金していなくても、投資による利益が決算に反映される。約1兆円の赤字から約5兆円の黒字と損益が大きく振れるのはこれが原因だが、一連の数字はあくまでも帳簿上のものであって、実際に同額のキャッシュが出入りしているわけではない。

この点において同社は特殊な存在と言え、一般的な事業会社と同一視することはできないが、SBGのような企業が国内で最も大きな利益を上げるようになったことについては、それなりに背景がある。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、ガリウムやゲルマニウムの対米輸出禁止措置を停

ワールド

米主要空港で数千便が遅延、欠航増加 政府閉鎖の影響

ビジネス

中国10月PPI下落縮小、CPI上昇に転換 デフレ

ワールド

南アG20サミット、「米政府関係者出席せず」 トラ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 2
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 3
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった...「ジャンクフードは食べてもよい」
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 9
    「豊尻」施術を無資格で行っていた「お尻レディ」に1…
  • 10
    「爆発の瞬間、炎の中に消えた」...UPS機墜落映像が…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 8
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 9
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 10
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story