コラム

感染症予防の意識が低すぎる日本企業の「働かせ方」にも改革が必要だ

2020年02月19日(水)11時22分

満員電車による通勤には大きな感染のリスクがある KIM KYUNG HOONーREUTERS

<新型肺炎などの感染症の流行を防ぐ手立ては、国家主導の大掛かりなものだけではなく、企業のレベルで実施できるものも多い>

新型コロナウイルスによる肺炎が世界で猛威を振るっており、国内では不安心理が高まっている。新型肺炎には有効な治療法がなく、強い警戒が必要なのは事実だが、実は日本国内では毎年3000人以上が一般的なインフルエンザで亡くなっている。

今回の騒動がなくても、感染症は日本社会における大きなリスク要因となっているのに、社会の関心は薄い。新型肺炎について過度に不安視するのではなく、企業が日常的にインフルエンザ対策を実施していれば、結果的に新型肺炎対策にもなるという現実についてよく理解しておくべきだろう。

毎年冬にはインフルエンザが流行するが、その死亡者数は2018年が3325人と、リーマン・ショック以降、急増している。ただ、インフルエンザによる死亡を明確に特定するのは難しい。肺炎による死亡を考慮する必要があることに加え、インフルエンザの流行がなければ回避できたと推定される死亡者数(超過死亡)を加味すると死亡者数はさらに増える(1万人規模とされる)。

いずれにせよ、最低でも年間3000人がインフルエンザ関連で死亡しており、これは尋常な数字ではない。単純に死亡者数でいえば、新型肺炎より毎年のインフルエンザのほうが圧倒的な脅威といえる。

一般的に、インフルエンザや今回の新型肺炎などウイルスによる感染症は、飛沫感染と接触感染が主要な感染経路とされている。感染を回避するためには、人が近距離で密集する場所に長時間滞在することを避け、他人とできるだけモノのやりとりをしないことが重要となる。接触感染による感染は意外と多く、不特定多数の人が触れるエレベーターやコピー機のボタンはウイルスの巣窟になっている。

敵は通勤ラッシュと会議

諸外国の企業ではインフルエンザが流行した場合は、書類のやりとりを控える、可能な限り会議を控える、デスクに消毒液を置く、といった措置を実施するところもあるが、日本ではこうした意識は希薄である。最悪なのは満員電車による通勤で、飛沫感染と接触感染の両方のリスクがあり、感染拡大の温床となっているのはほぼ間違いない。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

独仏両国、次世代戦闘機の共同開発中止に向けて協議=

ワールド

トランプ氏、マクドナルドのイベントで演説 インフレ

ワールド

英、難民政策を厳格化 反移民感情の高まり受け制度悪

ワールド

元FBI長官起訴で不正行為 連邦地裁が記録の提出命
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story