コラム

プロ投資家の多くが衆参同日選がないことを予想できていた理由

2019年07月17日(水)15時25分

戦後の日本政治において衆参同日選が実施されたのはわずか2回 Toru Hanai-REUTERS

<政府が予定している多くの政策は増税を前提に組み立てられており、消費増税延期なんてことがあれば、大学などの学費の無償化も年金減額もすべてが立ち行かなくなる。メディアでは同日選を予想する報道が多かったが、政治家と市場関係者に通ずる「共通点」から考えれば、政局の答えは出ていた>

今回の参院選は、公示ギリギリまで衆参同日選の噂が絶えないという異例の選挙だった。メディアでは同日選を予想する声が圧倒的に多かったが、資本市場の世界ではかなり前から衆参同日選はないと判断していた人が多い。彼等はなぜ政局を予想できたのだろうか。

衆参同日選には明確な争点が必要だが・・・

筆者も以前から衆参同日選になる可能性は低いと主張していたが、筆者に取材に来た記者の方などは、大半が筆者の見解に怪訝そうな表情を浮かべていた。確かに一時は同日選がほぼ確定したような雰囲気だったことを考えると、無理からぬことかもしれない。

市場関係者が、同日選の可能性が低いと判断していた理由は、消費増税延期に伴う行政コストの大きさと、戦後政治の歴史である。

安倍政権が衆参同日選に持ち込むには、国民に信を問う明確な争点が必要となる。憲法第7条による解散であれば、首相はいつでも解散を決断できるので、(首相としての見識の問題は別にして)いわゆる解散の大義名分は必要とされない。だが選挙戦を展開する以上、わかりやすいメッセージが必要であり、今回の場合には、消費増税の延期以外にはあり得なかった。

世の中では消費増税の延期を求める声が大半だが、行政実務という観点から考えると、このタイミングで増税を延期することにはかなりの困難が伴う。最大の理由は、来年度予算はもちろんのこと、多くの政策が増税を前提に組み立てられているからである。

安倍政権は、教育の無償化を進めており、5月には大学などの学費を無償化する「大学等修学支援法」が国会で成立したが、無償化の財源は消費増税分を充当することが最初から決まっている。

今回の選挙戦は年金2000万円問題が予想外の争点となったが、政府が予定している年金の減額幅はあくまで消費増税の実施が大前提であり、増税を実施しない場合には、さらに減額幅が大きくなってしまう。減額になるという事実が明らかになっただけでも、これだけの騒ぎになった現実を考えると、増税延期によって年金財政を危うくさせる決断をするのはかなり難しいだろう。

意外とメリットが少ない衆参同日選挙

多くの政策が消費増税を前提に組み立てられていることから、行政府や与党内における実務的な手続きも、粛々と前に進んでしまう。これも、後になればなるほど、延期の決断を難しくする効果をもたらす。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ニデック、4―9月期純利益58%減 半期報告書のレ

ビジネス

年内に第三者委員会から最終報告が出る状況にはない=

ビジネス

26年春闘の要求、昨年より下向きベクトルで臨む選択

ビジネス

仏CPI、10月前年比+0.8%に減速 速報から下
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 5
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 6
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 7
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 10
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story