コラム

水道事業の民営化で水の安全が脅かされるという話の虚実

2018年12月11日(火)15時10分

民営化はひとつの対応策に過ぎない(写真はイメージ) caristo-iStock

<収支の悪化した水道事業を、広域連携と民営化によって対応しようとしているが、すべてがバラ色というわけにはいかないのもまた現実だ...>

水道事業の民営化を可能にする「改正水道法」が12月6日の衆院本会議で可決、成立した。世の中では「民営化で水質が悪化する」「日本の水が外資に乗っ取られる」、あるいは「民営化しか選択肢はあり得ない」といった極論や感情論ばかりとなっているが、この法改正の本質は民営化そのものではない。人口減少や水に対する需要の減少から、全国の水道事業は存続の危機に直面しており、民営化はひとつの対応策に過ぎない。

筆者は民営化そのものに対して積極的に賛成する立場ではないが、水道というまさに国民の命を左右する重大問題について、単なる民営化の是非という話に矮小化することの弊害は大きいと考えている。水道事業をどう存続させていくべきなのか、今回の法改正をきかっけに国民的な議論を始める必要がある。

水道料金は、場所によって数倍の差がある

日本の水道事業は、水道法によって原則として市町村が運営すると定められている。この法律に基づき、各市町村は独自に水道事業を運営してきたが、財政的に厳しい状況に直面しているところが多い。その理由は、人口の減少と1人あたりの水使用量の減少である。

特に過疎地域にその傾向が顕著だが、人口が減ると水道料金収入が減るため、事業収支が悪化する。一般に人口が5万人を切ると、水道事業を黒字で運営することが難しくなるといわれる。収支の悪化が原因で、設備が老朽化しているにもかかわらず、更新を先延ばしにしている自治体も多い。法定耐用年数を超えた水道管路の割合は13%に達しており、この数字は年々上昇している。

こうした状況に加えて、近年、家電の性能が上がったことなどから、1人あたりの水使用量が減っており、料金収入減少に拍車をかけている。

このままでは設備の更新に対応できなかったり、日常的な業務運営に支障をきたす自治体が出てくる可能性が高い。改正水道法はこうした事態に対応するための法的な枠組みである。

改正水道法の柱となっているのは、水道事業の広域連携と民営化である。

水道事業の広域連携は、自治体の広域連携と似たようなもので、複数の自治体で水道事業を一本化し、運営コストを引き下げるという手法である。自治体の統廃合はすでに行われているので、それほど難しい施策には見えないかもしれないが、実はそうでもない。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ボーイング幹部、エア・インディア本社訪問 墜落事故

ビジネス

ソフトバンクG、Tモバイル株売却で48億ドル調達=

ワールド

ロシア、ウクライナ首都にドローン・ミサイル攻撃 1

ワールド

インド、年末までにEUと貿易協定締結の見通し=モデ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 7
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 8
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 9
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 10
    「そっと触れただけなのに...」客席乗務員から「辱め…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story