コラム

このままでは日本の長時間労働はなくならない

2016年10月17日(月)18時00分

 フランスは主要国の中では、1人当たりのGDPが高い方ではなく、イタリアに至っては日本よりも低い。しかし、こうした国々の労働生産性が日本よりも高い(イタリアの実質労働生産性は50.9ドル)ということは、労働時間が日本よりも短い、あるいは労働者の数が少ない状況であることが推察される。フランスやイタリアはそれほど高付加価値ではないが、効率の良さで豊かさを実現していることになる。

 一方、英国、ドイツ、米国は1人当たりのGDPが日本よりもかなり高い。米国や英国の労働時間は比較的長いといわれているので、これらの国々はハードワークをこなして高い付加価値を獲得し、それによって労働生産性を上げていると解釈できる。日本は付加価値が低くかつ長時間労働なので労働生産性が下がってしまっていると見てよいだろう。

【参考記事】日本の睡眠不足がイノベーション社会への変革を阻害する

 この話は、各国の労働生産性の上昇要因を分解するとさらにはっきりしてくる。他の主要国は、生産性の上昇分のうち多くが、労働時間の短縮化や就業者数の減少ではなく、付加価値の増加によってもたらされていた(2005年から2013年までの平均値)。つまり諸外国の企業は儲かる製品やサービスをうまく作り出すことに成功し、それによって労働生産性が上昇したというパターンである。

 一方、日本における付加価値要因はマイナスとなっており、物価要因でのみ生産性が上昇している。儲からない製品やサービスばかり作っているが、デフレに助けられたという構図である。就業者数の変化や労働時間の変化による影響はごくわずかなので、労働環境が改善した様子は見られない。

IT化の遅れと人的資本への貧弱な投資が原因?

 ここまで差があるということになると、文化の違いなどで済まされる話ではない。あまりにも結果が良くないので、これ以上、見たくないという気持ちにもなってくるが、状況を改善するためには現実を受け入れなければならない。

 白書では、生産性を向上させるためのカギを2つ取り上げている。ひとつはITへの投資、もうひとつは人的資本への投資である。日本企業におけるIT化が遅れていることは、20年以上も前から繰り返し指摘されていることだが、状況は改善していない。
 
 2006年から2010年にかけての情報化資産装備率の上昇率は、日本は2.5%だったが、英国は6.0%、米国は5.7%、ドイツは4.3%だった。また人的資本への投資の上昇率に至っては、米国や英国が2%から3%程度だったのに対して、日本は何と11.3%ものマイナスだった。

 日本にいるとあまり意識しないが、諸外国では、業務は徹底的にIT化されており、情報システムを介さない業務の方が珍しくなっている。当然、システム化の水準は生産性に影響してくることになる。

 人的投資が大幅なマイナスになっているのは、ニワトリとタマゴだが日本企業の付加価値の低下と大きく関係している可能性がある。日本企業は儲からなくなっており、ここ20年、総人件費の圧縮を続けてきた。日本では正社員の雇用と給料は聖域となっており、大幅に減らすことができない。そのシワ寄せが非正規社員や研修コストの削減などに向かっている可能性は高い。

 日本で長時間労働が横行しているのは、文化という面だけでなく、日本企業がそもそも儲かっていないことに起因している。低い付加価値を労働時間でカバーしているという図式だ。もしそうであるならば、日本企業のビジネスモデルを根本的に変えない限り、長時間残業の問題は解決しないだろう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネスなどの分野で執筆活動を行うほか、テレビやラジオで解説者やコメンテーターを務める。『お金持ちの教科書』(CCCメディアハウス)、『スタグフレーション』(祥伝社新書)、『本気で考えよう! 自分、家族、そして日本の将来』 (幻冬舎新書)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、ロシアの攻撃で5人死亡 モルドバの送電

ワールド

ロシア、カスピ海へのイラン紛争波及を警戒=大統領府

ワールド

欧米の関係断絶、ウクライナ侵攻に匹敵 元に戻らず=

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、3月速報は成長停滞 中東紛争で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店員も「なすすべなし」の暴走モード
  • 2
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 3
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」した──イスラエル首相
  • 4
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 5
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 6
    「胸元を強調しすぎ...」 米セレブ、「目のやり場に…
  • 7
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 8
    スウェーデン次期女王ヴィクトリア皇太子、陸軍訓練…
  • 9
    「買ったら高いじゃん?」アカデミー賞会場のゴミ箱…
  • 10
    イラン戦争、トランプを泥沼に引きずり込む「5つの罠…
  • 1
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 2
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 6
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 9
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 10
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story