コラム

旧統一教会をたたけば全てが終わるのか? 

2022年08月17日(水)11時30分

銃撃事件はギリシャ悲劇のように大きな運命にもてあそばれて滅んでいく人間たちの物語 REUTERS/Issei Kato/File Photo

<教団批判の論理を突き詰めるなら安倍元首相の責任と国葬の是非も吟味されるべき>

安倍晋三元首相銃撃事件の衝撃は、「旧統一教会(世界平和統一家庭連合)と、誰が・いつ・どう関係したか」という魔女狩りにすり替わり、それも8月10日の内閣改造で一段落した。

しかしそれでは何も学ばないことになる。事件が意味するものは何なのか、政治システムと外交面から吟味してみよう。

あの事件は、戦前の日本で起きた首相・有力政治家の暗殺とは違う。戦前は、日本の行く末に大げさな使命感を持った連中が暗殺に走ったが、今回は個人、そしてその家族の生活を破壊された恨みが山上徹也容疑者を突き動かした。

しかし、旧統一教会の幹部ではなく自民党で旧統一教会の窓口だったとされる安倍元首相を撃ったことで、山上は日本の民主主義体制の暗部を白日の下にさらした。

旧統一教会に限らず、モラルや法に反する団体でも、政治家に票と運動員を提供することでお目こぼしを受けて繁栄し続けることができる。政党のトップに立つ者は、配下の議員たちとそれら団体の関係を取り持つことで権力を維持し、自分の政策を実現していける。

そしてここには、韓国への辛めの対応を主張する自民党の議員たちが、ほかならぬ韓国で発祥した旧統一教会の支援を受け、教団は日本人から資金を巻き上げるというねじれた構造も垣間見える。この構造のしわ寄せで家庭を破壊された者が、構造の頂点に立つ政治家を殺す。

ここでは山上も安倍元首相も体制の被害者に見える。安倍氏は私益のためというより、以前から続く利権構造の中で振られた役割を、清濁併せのむことで果たしていただけなのだから。銃撃事件はギリシャ悲劇のように、大きな運命にもてあそばれて滅んでいく人間たちの物語なのだ。

だが1つ分からないことがある。旧統一教会たたきの論理を突き詰めるなら、安倍元首相の責任も問われるべきだし、国葬の是非も吟味されるべきではないか。

旧統一教会への恨みを安倍元首相に向けるのは論理の飛躍だということで容疑者の山上は精神鑑定中だそうだが、それならば「旧統一教会と関係を持った者は全てバツ。しかし安倍元首相の国葬は不問」という論理も、鑑定を必要とするのでないか?

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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