コラム

パラダイムシフトが重なる時代に日本が取り組むべきこと

2022年04月16日(土)14時30分

自衛隊は憲法違反としてきた日本共産党も是認に傾いている KIYOSHI OTAーPOOLーREUTERS

<安保・経済・エネルギー分野で起きる構造変化に向き合うための処方箋>

ウクライナ戦争とロシア制裁、それに伴うエネルギー・原材料価格の高騰とそれが激化させる各国のインフレとバブル崩壊の恐れ。そして中国とのデカップリングによるサプライチェーンの構造変化や、環境問題にコロナ禍......と、世界は解かねばならない問題のオンパレードだ。

しかし、全部一度に解けるわけがない。日本にとって一番切実で、真剣な取り組みを必要とするものは何だろう。

ウクライナ戦争は、プーチン大統領の正念場となる。ロシアはウクライナでの作戦の失敗で、カフカスや中央アジアの旧ソ連諸国の信頼を失ったことだろう。

カザフスタンはロシアの同盟国であるのに、対ロ制裁の抜け道に使われること(西側企業がカザフスタンを通じてロシアとの禁輸品取引を行うなど)を既に拒絶。ロシアがアルメニア、タジキスタンに置く兵力をウクライナ方面に移動させれば、ロシアはこれらの地域での力を失い、旧ソ連は真の解体を迎えるだろう。

孤立し弱体化したロシアは、アメリカと対峙する上で役に立たないばかりか負担になる存在として、中国から切られる。だがその場合、中国も西側に対して「裸」になり劣勢に立たされる。

しかしウクライナ戦争が日本にはっきり突き付けたのは、武力による侵略が文明的な生活をいとも簡単に破壊する、ということ。そして米軍による支援は100%保証されているわけでもないということだ。

だから日本の世論は自衛力の是認・増強の方向に傾いている。自衛隊の存在は憲法違反だとしてきた日本共産党も是認の方向で動いている。これまでの平和主義の反動で、世論が過度の軍備増強・戦前の国家主義復活の方向に進まないことを望む。

ウクライナ戦争で、世界は「経済の時代」から「政治・安全保障の時代」に移った、とする議論が出ている。
これは物事を政治とか経済とかの「専門」に分けて、総合的に考えようとしない人たちが言うことだ。経済は人間の生活、国家の安全保障の基底にあり、政治の専門家にも常に考慮の対象とされるべきものだ。

今回のロシア制裁では、エネルギー問題が切っても切り離せない問題として浮上した。石油利権を求めて第2次大戦を起こしたドイツと日本が、今回もエネルギー基盤の脆弱性をあらわにしている。ドイツはロシアの天然ガスへの依存を急には止められず、日本もロシア原油を止めれば中東への依存度を高めざるを得ない。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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