コラム

菅政権に忍び寄る「ええじゃないか」的政権交代【2021年展望】

2020年12月28日(月)15時30分

だがそれよりも心配なのは、日本経済の今の在り方がいつまで持つかということだ。消費が盛り上がらないため財政支出で経済を支えていること、そのために債務残高がGDPの2倍にも達していること、電子産業でアメリカ・韓国・台湾・中国企業に圧倒され、自動車も電気自動車の急速な台頭に押されていること──など、大きな問題がごろごろ転がっている。「コロナでテレワークが定着する」といった浮ついた議論が多いが、それだけで企業や事業が成り立つわけがない。

第2次安倍政権の発足時、英エコノミスト誌は、安倍をスーパーマンに仕立てて表紙にした。沈む一方の日本を救い出す、というのである。

確かに安倍は、麻生太郎副首相を財務省に配してその「均衡財政原理主義」を抑え、日銀総裁を黒田東彦に代えて、異次元の金融緩和を実現。円安・輸出拡大で景気を引き上げたが、アベノミクスの第3の柱と目された規制緩和・構造改革はうやむやのまま終わった。結局のところ、アベノミクスは、ドーピングで日本経済の没落を防いでいたにすぎない。

もっと成長要因を社会に内在させる必要がある。第1に、被雇用者側の取り分を大きくして、消費してもらうことで、経済をかさ上げしていく。企業はベースアップを嫌うので、業績に見合ったボーナスの増減で構わない。そしてさまざまな事情で大企業による雇用は減少していくので、ジョブ型の雇用や起業でやっていける人材を増やす。つまり教育の在り方を大幅に変える。そしてこのような大きな方向付けと、そのための予算再配分こそが、政治家の本分だ。

2021年に向けて米欧は、景気刺激のためにさらなる利下げを追求しようとしている。2008年のリーマン・ショック後、日銀は米欧に見合う利下げをせず、それによって円高と製造業の海外への大量流出を招いたが、今回も似た状況になってきた。利下げで対抗しようにも、日本はもう利下げをする余地がない。今更流出する製造業ももう残っておらず、円高のメリットを活用することでも考えるしかない。

「トランプ後」の世界で

外交は、バイデン時代の世界に合わせて微調整をすることになる。トランプ時代の「何でもあり。いつアメリカに放り出されるか分からない」というスリルはなくなる。その代わり、「日本はアメリカが強く出れば言うことを聞く弱い存在」という、正統派エリートに染み付いた上から目線が戻ってくるだろう。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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