コラム

エルサレム移転を前に報じられる驚愕「トランプ和平案」の中身

2018年03月19日(月)11時22分

3月1日、ファタハの会合でコーランを読み上げるパレスチナ自治政府のアッバス議長(中央) Mohamad Torokman-REUTERS

<5月、イスラエル建国70年に合わせて米大使館をテルアビブからエルサレムに移転する計画のトランプ政権。近く独自の中東和平案を公表するとみられているが>

米国務省が5月にイスラエル建国70年に合わせて、在イスラエル大使館を現在のテルアビブからエルサレムに移転すると発表した。トランプ大統領が昨年12月初めにエルサレムをイスラエルの首都と認定したことを受けたものだ。

米国は当初、大使館の移転は2019年と言っていたが、前倒しとなった。国連総会はトランプ大統領の発表を「無効」とし、撤回を求める決議を圧倒的多数の賛成で採択したが、トランプ大統領は国際社会の反対を押し切って強行する構えだ。

1948年の第1次中東戦争は、イスラエルにとっての建国であるが、パレスチナ人は「ナクバ(大惨事)」と呼ぶ。70万人以上のパレスチナ人が故郷を追われて、悲惨なテント暮らしをすることになった。

故郷を追われた状況については、ユダヤ人勢力による計画的な虐殺、破壊、追放があったことは、先のコラム(独立直後のイスラエルが行ったパレスチナ人の「民族浄化」を告発する)でユダヤ人の歴史学者イラン・パぺによる『パレスチナの民族浄化――イスラエル建国の暴力』(田浪亜央江・早尾貴紀訳、法政大学出版局)を紹介した。

米大使館のエルサレム移転は、パレスチナ人にとっての70年目のナクバと理解されるだろう。大使館移転の問題は、近くトランプ大統領が公表するとされる中東和平案につながるものである。トランプ和平案はイスラエル寄りで、パレスチナにとっては最悪の内容になるという推測が出ており、70年前のナクバ以上の政治的な大惨事となるかもしれない。

入植地は残り、パレスチナ首都はエルサレム郊外に?

報道を見ると、昨年12月初めにトランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定する直前から、トランプ大統領による和平案の話が見え隠れしていた。認定の数日前、米紙ニューヨーク・タイムズにアッバス議長がサウジアラビアから米国の中東和平提案を受け入れるよう説得されたという記事が出た。

アッバスは11月初めに突然、サウジを訪問し、ムハンマド皇太子と面会。記事によると、「ムハンマド皇太子はアッバス議長に、それまでのどんな米国政府の案よりもイスラエル寄りで、どんなパレスチナの指導者も受け入れることができないような和平案を提示した」という。

記事はアッバス議長に提示された和平案について、次のように書く。

「パレスチナは国を与えられるが、ヨルダン川西岸で地域は分断され、限定的な主権しかない。西岸に建設され、多くは違法なユダヤ人入植地は残って、イスラエルに編入される。パレスチナには首都として東エルサレムは与えられず、パレスチナ難民が帰還することは認められない」

記事の中ではアッバス議長から和平案について相談を受けた人間の情報として、将来のパレスチナ国家の首都としてエルサレム郊外の「アブディス」が提示されたという話が出ている。アブディスはエルサレムの東の郊外であるが、イスラエルがエルサレムの周辺に建設した分離壁の外にある。事実であれば、将来のパレスチナ国家はエルサレムから排除されることになる。

プロフィール

川上泰徳

中東ジャーナリスト。フリーランスとして中東を拠点に活動。1956年生まれ。元朝日新聞記者。大阪外国語大学アラビア語科卒。特派員としてカイロ、エルサレム、バグダッドに駐在。中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『中東の現場を歩く』(合同出版)、『イラク零年』(朝日新聞)、『イスラムを生きる人びと』(岩波書店)、共著『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社新書)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない』(集英社新書)。最新刊は『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』
ツイッターは @kawakami_yasu

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