コラム

民主化か軍事化か、制裁解除後のイランの岐路(前編)

2016年01月25日(月)15時58分

最高指導者のハメネイ師(写真)はこれまで、改革派と保守派の大統領を体制を維持するための「カード」として使ってきたが、核合意による制裁解除でイランの革命体制が重大な岐路にさしかかるかもしれない Morteza Nikoubazl-REUTERS

2月の議会選挙で改革派候補はほとんど立候補を認められず

 イランに対する制裁が解除された。これによってイランを抑えていた国際的な圧力が取り除かれる。私が注目するのは、制裁のもとで抑えこまれていた民主化の動きである。昨春、核協議の最終合意に達して以来、イランで改革を求める民主化勢力からは「制裁解除は民主化の追い風になる」という声が出ている。制裁による国際的な孤立のなかで、政府批判は欧米を利する行為として抑えられる空気ができていたが、それがなくなることへの期待である。

 2月26日には議会選挙が行われるが、これまでのところ、立候補資格を認定する監督者評議会は改革派の候補のほとんどの立候補を認めないという報道が現地から出ている。改革派から3000人が立候補登録して、認められたのは30人という情報さえ出ている。最高指導者のハメネイ師は選挙関係者との会合で、「イスラム共和制を信じ、その価値に賛同する者だけが議会に入ることを許されるべきであり、それに反対するものは議会に選出されるべきではない」と語ったと報じられている。

 この言葉から、ハメネイ師がいかに改革派を嫌い、恐れているかが分かる。しかし、イスラム体制に疑問を持ち、改革派を信じる声を議会から排除すれば、その声は街頭で上がることになるだろう。私は2009年に革命防衛隊とつながる保守強硬派のアフマディネジャド大統領が再選された選挙を取材したことがある。改革派候補のムサビ氏を支持する若者たちに民主化要求の動きが広がるのを目の当たりにした。ムサビ陣営のシンボルカラーとなった緑色の旗を付けた車やリボンを腕に着けた若者が通りに繰り出し、「緑の革命」とも呼ばれた。

 さらに2011年2月に「アラブの春」に呼応してデモが行われたが、ムサビ氏はデモを呼びかけたとしてそれ以来自宅軟禁となっている。制裁解除によって外圧が解ければ、国内で民主化と改革を求める動きが再燃することになりかねない。イランは年齢平均値が28歳で、アラブ世界と同じく、膨大な若者人口を抱える若い国である。若者たちが通りに繰り出し、それを抑えるために革命防衛隊が表に出てくれば、軍事独裁化が進む動きに向かうかもしれない。

 制裁解除だけで政治変動が起こるわけではないが、イランの場合は、1979年のイスラム革命以来30年以上が過ぎた「イスラム宗教者が国政を指導する体制」が、すでに国民の支持を失っているという前提を考えねばならない。そのために、改革を求める勢力を議会選挙から排除しなければならなくなって政治が空洞化しているのだ。この状況で、外圧の重石がとれた時、改革と民主化を求める動きが噴き出すのか、それを抑え込もうとする力によって強権と軍事化に動くのか。イランの革命体制を一身に背負ってきた76歳の高齢の最高指導者ハメネイ師の後継問題とも絡み、イランは重大な岐路にさしかかることになろう。

大統領選挙の番狂わせは"天の声"か

 イランの政治は1997年-2005年の改革派のハタミ政権▽2005年-2013年の保守強硬派のアフマディネジャド政権▽2013年に生まれた保守穏健派のロハニ政権――と、この20年の間に大きな振れ幅で揺れてきた。大統領選挙のたびに、予想もしない結果が出るというメディア泣かせの国柄でもある。私は2005年にアフマディネジャド大統領が当選した時の大統領宣誓式と、2009年の大統領選挙運動期間中にテヘランに入った。

プロフィール

川上泰徳

中東ジャーナリスト。フリーランスとして中東を拠点に活動。1956年生まれ。元朝日新聞記者。大阪外国語大学アラビア語科卒。特派員としてカイロ、エルサレム、バグダッドに駐在。中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『中東の現場を歩く』(合同出版)、『イラク零年』(朝日新聞)、『イスラムを生きる人びと』(岩波書店)、共著『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社新書)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない』(集英社新書)。最新刊は『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』
ツイッターは @kawakami_yasu

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EXCLUSIVE-チャットGPTなどAIモデルで

ビジネス

円安、輸入物価落ち着くとの前提弱める可能性=植田日

ワールド

中国製EVの氾濫阻止へ、欧州委員長が措置必要と表明

ワールド

ジョージア、デモ主催者を非難 「暴力で権力奪取画策
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 10

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story