コラム

難民はなぜ、子供を連れて危険な海を渡るのか

2015年11月11日(水)16時25分

 家族生活を維持し、子供にしっかりした教育を受けさせたいという難民の親たちの思いは、ぜいたくとして否定されるべきだろうか。私は、そうは思わない。むしろ、戦争で住む場所を追われた厳しい状況の中であっても、子供に社会人として自立できる人間になって欲しいという親の必死な思いは、市民社会のモラルや秩序の維持につながるものである。

 シリア内戦はすでに4年半を過ぎ、400万人以上が難民化し、700万人以上が国内避難民となっている。難民生活を強いられる子供たちが「失われた世代」となれば、彼らが将来、若者になり、親になることを考えた時、その影響はシリアだけでなく、中東や世界に及ぶだろう。

 難民問題の対応は、難民の家族が安全に暮らし、子供が教育を受け、育つ環境を提供するという「生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)」という視点から見直されるべきである。生活環境が整った欧米や日本が難民家族を受け入れることは、そのために重要な対応である。

 さらに周辺国に留まる難民たちに対しても、難民の親たちが家族を維持し、子供たちがしっかりと育つ環境があると考えられるような国際的な支援が必要となる。難民の受け入れ国で、地域の住民と難民の両方の生活や就労を向上させるような国際的な取り組みはできないだろうか。国際社会は、難民たちが周辺国で不毛な難民生活を続けるか、命がけで欧州に密航するかという極端な二者択一から解放される道を探さねばならない時にきている。

プロフィール

川上泰徳

中東ジャーナリスト。フリーランスとして中東を拠点に活動。1956年生まれ。元朝日新聞記者。大阪外国語大学アラビア語科卒。特派員としてカイロ、エルサレム、バグダッドに駐在。中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『中東の現場を歩く』(合同出版)、『イラク零年』(朝日新聞)、『イスラムを生きる人びと』(岩波書店)、共著『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社新書)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない』(集英社新書)。最新刊は『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』
ツイッターは @kawakami_yasu

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