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焦点:ハメネイ師殺害、イランは後継者問題と国内情勢緊迫に直面

2026年03月02日(月)09時10分

写真はイランの最高指導者ハメネイ師の殺害後、集会に集まる人々。3月1日、テヘランで撮影。WANA提供。 REUTERS

Samia Nakhoul Parisa Hafezi Emily Rose

[ドバ‌イ 1日 ロイター] - イスラエルと米国が空爆でイランの最高指導者ハメネイ師を殺害‌したことで、イランは1979年のイスラム革命以来の危機に陥った。自国領土での戦闘、未解決の後継者問題、内部の緊張の高まり​に直面している。

ハメネイ師殺害で衝撃が走る中でも、現地情勢に関する計5人の当局者とアナリストは急速な崩壊を想定すべきではないと警告した。イランの政治秩序は1人の指導者に依存しないように構築されており、権力が聖⁠職者と治安機関などに分散されていると指摘する。

米シンクタンク、​アトランティック・カウンシルのダニー・シトリノウィッツ氏は「イラン体制は1人の人間より大きい。ハメネイ師の排除は体制を弱体化させるどころか、強化させる可能性がある」と警告した。

ロンドン大ロイヤル・ホロウェイ校の研究員アリ・ハシェム氏は「イランは指導者を失っても耐えられるように設計されている」とし、「危険なのは真空状態ではない。戦闘と圧力が体制を維持する耐性を超えるかどうかだ」と言及した。

イランの強靱さの核心にあるのは、イランの真の重心を担うとみなされてきた精鋭組織、イスラム革命防衛隊(IRGC)だ。現在の勢力の均衡はIRGCが戦場での損失と内部摩擦によって⁠弱体化するのか、それともより強固な体制を築き、さらに強硬で安全保障重視の統治方針の下で結束を固めるのかに懸かっている。

中東研究所の上級研究員アレックス・バタンカ氏は「真の問題は、ハメネイ師の死がイランを実質的に支配する組織であるIRGCの勢いを削ぐのか、それとも結束を固めて強硬路線に突っ走るのか⁠だ」とした上で、「​一般の幹部たちがここ(イラン)には未来がないと判断した場合、IRGCでさえ体制を維持できるかどうか分からない」と話す。

地域当局者らは、IRGCのアイデンティティーと使命は革命防衛に根差しているためイデオロギーの変革は起こりにくいと指摘する。一方で体制に求められた場合には、戦術の変更は可能だ。

ある地域関係者は「彼らはより穏健な勢力に代わる可能性がある。体制存続のためなら米国との緊張緩和を受け入れる、現実的な中間層のメンバーが存在する」と明かす。この条件付きの現実主義こそが、IRGCを体制の盾たらしめているのと同時に、その重要なバロメーターにしている。

<体制変更も?>

元米国家情報副長官(中東担当)のジョナサン・パニコフ氏は、米国とイスラエルがイランの軍事的な反撃能力を低下させるだけでなく、指導部を取り除いて一般兵士の忠誠心を試すことで、体制そのものを不安定化させる戦略を追求し⁠ているとの見方を示した。パニコフ氏は民衆の反体制活動が再燃した場合に治安部隊が傍観するか、それとも離反するかで、このアプローチの‌成否が分かれるとした。

当局者によると、イランの現体制にとっての最大の優先事項は継続性を示すことだ。イランの指揮系統は厳しい圧力にさらされながらも、機能し続けている。ミサ⁠イル部隊、防⁠空システム、最高司令官らは打撃を受けたものの、体制は今のところそれらのショックを乗り越えている。

当局者によると、イランは現在3つの交錯した試練に直面している。治安体制が攻撃下で維持できるのか、苦境にあるエリート層が後継者で合意または新たな統治方式へ転換するのか、そして国民の動揺によって現在の危機がより政治的な分裂へとつながるのかどうかだ。

イランのベテラン政治家アリ・ラリジャニ氏は1日、ハメネイ師殺害を受けて臨時指導部を設置すると表明した。ラリジャニ氏や、イラン議会のモハンマドバーゲル・ガリバーフ議長らは安全保障を重視しつつ現実的なバランス感覚を持つとされており、橋渡し役として期‌待されている。

イランはこれまでに1度しか経験したことのない後継者選びに直面している。最高指導者が不在となった場合、88人の聖職者で構成する専門家会議が選出する。​だが、アナリスト‌らは戦闘下なのを踏まえると早急な結果に向かう可能性が⁠あると指摘する。それは急遽任命される後継者か、治安機関を中心とした暫定的​な集団指導体制のいずれかになるとの見方だ。

アナリストらは、ハメネイ師が生前にそれを形作ろうとしていたと述べる。昨年6月のイスラエルとの12日間の戦闘後、ハメネイ師は望ましい後継者を指名し、主要な軍事ポストを控えている司令官らで埋められるようにした。

彼が支持した候補者には、ゴラームホセイン・モフセニー・エジェイー司法長官、初代ホメイニ師の孫で穏健派のハッサン・ホメイニ師らの名前が挙がっていた。

しかし、当局者らは後継者が殺害される事態を恐れ、後継者の選定を遅らせる可能性があるとの見解を示した。

<終わりには程遠い?>

イスラエルの作戦内容に詳しい2人の情報筋によると、イスラエルはイランの統治体制に関連する政治・治安機関や弾道ミサイル・発射システムへ‌の攻撃を継続し、国家の弱体化と政権交代への条件整備を図る意向だ。

1人の情報筋はイスラエルが少なくともイランのミサイル能力を破壊するまで作戦を続けたいと考えているが、米国がイランとの合意に達した場合に作戦が打ち切られる可能性を懸念していると説明した。

イスラエル外務省のオーレン・マルモルシュタイ​ン報道官は同国テルアビブでロイターに対して「目的は極めて明確だ。イスラエル国家存亡の危うさ取⁠り除くことだ」とし、「その脅威とはイラン政権だ。私たちはイラン国民とは何の争いもしていない」と語った。

米国とイスラエルの共同軍事作戦について直接知る高官は、作戦が初期段階にあり、現地情勢次第で結果が変わるため、イランでどのような政治体制が生まれるのかを予測するのは時期尚早だと明かした。その上でイラン国民が未来を切り開く必要があるとし、米国とイスラエルがイラン​上空の「制空権」を握ればそれが容易になる可能性があるとした。

さらに、ハメネイ師殺害を受けたイラン国内およびIRGC内部の亀裂を利用するには、攻撃のペースと強度を維持することが極めて重要だと指摘した。ただ、指揮系統の崩壊がどのような結果をもたらすかの見通しについては詳細を明かさなかった。

この紛争は新たなリスクももたらしている。アナリストらは外国軍がイランの領空で活動し、イランの統制力が限界に達している中で、大規模な反政府抗議活動が再燃すれば混乱が激化しそうだという。治安部隊での離反が加速し、変革を求める民間人指導者の存在感が強まる可能性もある。

ロイター
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