コラム

韓国の与党も野党も「法の支配」と民主主義を軽視している

2025年01月15日(水)09時56分

政治的野心をむき出しにした行動

世論の変化は、抵抗を続ける大統領に対する見方においても同じである。リアルメーターによれば、尹の逮捕を支持する人は54.4%だが、これに反対する人は44.5%にも達している。依然として大統領への迅速な処罰を求める声が多数であるものの、その差はもはやわずかになっている。

それでは、このような韓国世論の急速な変化をもたらしたものは何か。明らかなのは、弾劾訴追案可決の後も大統領代行を務めていた首相を弾劾するなど、強硬な姿勢に終始する野党、とりわけその代表である李の政治指導に対する忌避感情であろう。


選挙法違反をはじめとする数々の嫌疑を抱える李の、自らの事件の判決が出る前に大統領選挙を実施したい、という思惑がその性急な行動の背景にあるのは明らかだ。そのあまりに政治的野心をむき出しにした行動が、逆に保守派を尹と与党の下に結集させている。

そして、ここから分かることがある。それは程度の差こそあれ、こと法的な手続きを軽視して、自らの政治的利益を拙速に追求しようとしている、という点においては、韓国の与野党が実は同じ方向性を有している、ということである。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


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