コラム

維新の躍進とリベラルの焦りが日本に韓国型の分断を生む?

2021年11月03日(水)10時32分

明らかなのは、今日の韓国における慶尚道と全羅道と言う二つの地域の間での、異なるイデオロギーを保持しての対立、という奇妙な状況が、かつての古い政治構造の遺産であることであり、その中で両者が相手にレッテル貼りを続けてきた結果だということである。そしてこの様な憎悪と蔑視の感情をも伴う、イデオロギー的分断状況は、今日の韓国にさらに長い影を落としている。何故なら対立は今日では地域のみならず、世代間にも及び、30代から40代の人々が進歩派を支持し、60代以上の人々が保守派を支持して対峙する状況を作り出しているからだ。進歩派と保守派という二つのイデオロギーに分断されたこの社会では、今日も互いのイデオロギーにアイデンティティをもつ人々が、互いに相手を厳しく批判する状況が続いている。

こうした韓国の経験を顧みて、重要なのは、政治的対立を安易に地域的文脈へと読み替え、そこに自らの地域的偏見を交えることが、如何に地域の間での不信感を生み、不毛な対立構造を作り出すか、に他ならない。即ち、政治的理由から行われる一定の地域の人々に対する、地域的偏見をも利用したレッテル貼りは、逆にそのレッテル貼りに晒された人々の強い反発をもたらし、彼らの間に攻撃者に対する強い憎悪を持たせることになる。そして、彼らはやがて攻撃される自らにアイデンティティを見出し、そして攻撃者とは異なるイデオロギーを以て自らを武装する。つまり、それは自らの敵をわざわざ作り出す行為でしかない。

そもそも人々が自らの政治的立場を決め、その選択を行うに至るまでには、必ずそれなりの理由があり、考え方がある。だからこそ重要なのは、彼らが何故にその選択を行ったかを冷静に考察し、その選択をまずは尊重することでなければならない。にも拘わらず、その当たり前の作業を行わず、自らとイデオロギーを同じくしない他者に、感情のままに汚い言葉をぶつけるなら、その行為は民主化運動を行う人々に対して、地域主義と弾圧をもってした挙句、彼らを自らの対抗勢力へと育て上げたかつての韓国の軍事政権と、大きく異なることはない。重要なのは社会にイデオロギー的分断をもたらもたらすことではなく、冷静に分析し、互いが議論できる環境を作り上げることなのではないだろうか。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


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