コラム

G7で日韓首脳会談を拒否したと威張る日本外交の失敗

2021年06月18日(金)11時10分

第二に、そして更に悪いことに、朴槿惠による首脳会談の拒否は、日本ではなく韓国の国際的立場を悪化させる効果も持っていた。2014年、中国の南シナ海進出が大きな問題となると、時のオバマ政権は、西太平洋地域におけるアメリカの主たる二つの同盟国である日本と韓国が歴史認識問題を理由に対立を続けるのを、自らの安全保障政策における大きな障害だと考えた。この様な状況下、オバマは両国の関係改善の為に、安倍と朴槿惠の間をあっせんし、この年の3月にはハーグにて、オバマを挟んで安倍と朴槿惠が席を共にする形での、日米韓首脳会談が開催された。しかしながら、朴槿惠はその後も安倍との単独での対話を強硬に拒否し続けた。

だからこそ安倍は、この朴槿恵の姿勢を逆手にとって、自らがいつでも韓国との間の対話の扉を開いていることを積極的にアピールした。こうして同じ頃、韓国が中国への接近政策を進めていたこととも相まって、ワシントンにおいて、朴槿惠の「頑固さ」こそが、日韓関係が改善しない最大の要因であるとの印象が強まることとなる。

そして、朴槿惠は2015年10月、遂に安倍との最初の首脳会談を行うことを余儀なくされた。そしてその結果は、半年前にウォールストリート・ジャーナルが予測したのよりも、更に悪いものとなった。何故ならこの首脳会談を取り巻く状況下、日本との関係改善を求めるアメリカの強い圧力に晒された韓国は、その僅か2か月後、自らが日本の譲歩を強く要求した筈の慰安婦問題について、これまで主張してきた法的賠償を断念する内容を含む、屈辱的な慰安婦合意に応じることを余儀なくされたからである。

国際関係に配慮した安倍外交

この様な2015年の安倍外交の成功は、それが同盟国であるアメリカをはじめとする国際関係に十分配慮し、日韓関係の悪化の原因が日本側の行動によるものではないことを慎重に印象付けたことによるものであった。慰安婦合意に至るまでの過程で、安倍は並行して、選挙で約束した河野談話の見直しを断念したのみならず、バンドンやワシントンでの演説や、同年8月における融和的な安倍談話の発出により、自らに対する歴史修正主義者としての認識を変えさせるべく努力した。

しかしそれから6年を経た、今、日韓両国の立場は完全に逆転した状態になっている。事態を変えたきっかけは、2018年10月の安倍自身による姿勢変更である。即ち、安倍はこの月行われた元徴用工問題に関わる韓国大法院(日本の最高裁判所に相当)の判決を契機に、韓国政府との対話に消極的な姿勢に転じたからである。安倍はその一環として、以後、単独の日韓首脳会談を拒否することとなり、事態は今日に至ることとなっている。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

ロイターネクスト:為替介入はまれな状況でのみ容認=

ビジネス

ECB、適時かつ小幅な利下げ必要=イタリア中銀総裁

ビジネス

トヨタ、米インディアナ工場に14億ドル投資 EV生
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story