コラム

踊り場に来た米韓同盟:GSOMIA破棄と破棄延期の真意

2019年11月25日(月)17時50分

結局、彼らにとって重要なのは、米中をはじめとする大国の影響下から離脱する事であり、しかしながら現状における韓国の力は依然限られている。だからこそ彼らは一旦日韓GSOMIAを巡る問題でアメリカに屈服し、その関係を維持する事を選択した。しかしその事は彼らがこれからも同様の選択を行うことを意味しない。アメリカとの関係に依存するだけでは、従属の度が増すばかりで、「自主自立」は得られない。だからこそ、限られた資源は、現在の同盟関係の維持よりも、将来の軍事力の増強に用いたい。そうして力を十分に整えてから、徐々に「自主独立」へと向かうのだ。

こうして考えれば、現在の韓国で起こっている事は整合的に理解する事ができる。そしてその事は、米韓同盟が今まさに一種の「踊り場」に差し掛かっていることを意味している。2019年11月、日韓GSOMIAは半日足らずの僅かな時間的「余裕」を残したタイミングで、アメリカの強い圧力の下、辛うじて破棄されることを免れた。だが、「自主自立」を求める動きの高まりの中、韓国の揺らぎは大きくなっている。日韓GSOMIAを巡る交渉の後には、トランプ政権にとってより重要な、在韓米軍駐留経費増加を巡る交渉が待っている。果たして韓国政府は、ここでアメリカとの関係を重視して一定以上の負担増を受け入れるのか、それとも「自主自立」を求めて自ら、在韓米軍の削減を受容する方向に舵を切っていく事になるのか。米韓同盟は大きな岐路にさしかかっているのかも知れない。

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プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


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