コラム

スコットランドを分断する「アイルランド推しか否か」

2022年09月01日(木)16時30分
本拠地セルティック・パークを埋め尽くすサポーター

セルティックのサポーターにはアイルランド人カトリック系移民の子孫が多く、彼らは緑を身に付け、青のライバルチームを毛嫌いする(5月1日、セルティック・パーク) Carl Recine-REUTERS

<スコットランド人が何より意識するのはスコットランドでもイングランドでもなくアイルランド? スコットランドのグラスゴー旅行で気付いた不思議な対立構図>

僕のポスト・コロナ初旅行となったのは、僕の興味を引きつけて離さないグラスゴー(スコットランド南西部の都市)だった。僕はこの街をイギリスの(もちろんロンドンに次ぐ)「第2の都市」と考えている。個性的で豊かな文化があるからだ。

その存在感は大きい。マンチェスターやバーミンガムのほうが人口は多いが、個人的にはそれほど興味深いとは思わない。これらはロンドンの「二番煎じっぽい」イングランド都市である一方で、グラスゴーは最も興味深いスコットランドの都市だ。

だからグラスゴーはロンドンと肩を並べるとは言えないけれど、カテゴリー内ではトップに位置する(スコットランドの「首都」だからとエディンバラを推す人もいるかもしれないが、それとは別にグラスゴーは多くの点で勝っている)。

グラスゴーで僕が興味を引かれる数多くのものの1つは、スコットランド・ナショナリズムの本拠地であることだ。イギリスからの独立の是非を問う2014年の住民投票では、グラスゴーの投票者の53.5%が独立に票を投じた。スコットランド全体では独立反対が55%だった。スコットランド住民の約30%がグラスゴーに住んでいるから、グラスゴーの明確な独立賛成のリードがなければ、住民投票の結果は安定のイギリス残留、となっていたはずだ。

グラスゴーを分かつ緑と青

奇妙だったのは、僕が訪れたとき、グラスゴー市民の分断に心底驚かされたこと。僕の旅行はたまたま、サッカーシーズンの重要な時期に重なっていた。セルティックがスコティッシュ・プレミアリーグでちょうど優勝したばかりというタイミングで、シーズン最後のホームゲームでの勝利を祝う大々的なパーティーが行われていた。

僕はこのことを忘れていて、セルティックファンのパブが数多く立ち並ぶ地区の近くにある、有名な蚤の市のバラス・マーケットに向かった。このとき僕は青のシューズを履いていることに気付いたから、ホテルに引き返そうと決めた。

セルティックのサポーターにはアイルランド人カトリック系移民の子孫が多く、いつも緑を身につけており、青いユニフォームを着たプロテスタントのライバルチーム(レンジャーズ)を心底嫌っている。セルティックのサポーターはイングランド人も嫌悪する。あまりあり得なそうだけれど、もしも誰かが僕のシューズの色にケチをつけてきて、さらに僕のイングランドなまりを耳にしたら、厄介なことになるかもしれないと思ったのだ。

皮肉なのは、僕は血筋的にはアイルランド系カトリックなのだが、おそらくそんなことを証明する時間は与えられないだろう。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story