コラム

「友人を失う」という悪癖が首相辞任ジョンソンの本質

2022年07月21日(木)14時50分

僕もマレーとは知り合いだから(僕もオックスフォード大学で古典を学んだ)、彼が元教え子ジョンソンに古代ローマ式の「絶交宣言」を送ったという話は笑えた。マレーはさらに彼を「道化者で怠け者」と言った。ほかにも元友人たちの評価はと言えば、「ほら吹きのひょうきん者」(ヘイスティングス)、「謙虚さゼロ」(ワイアット)、「(首相の)職に不適格」(カミングス)......。

ジョンソンをよく知れば知るほど、彼を好きでなくなっていくという結論は否定できなそうだ。彼の辞任は実質的に、近しい同僚たちによって促された。政治家はあまり好かないリーダーとも一緒に働けるものの、そのリーダーのせいで自分の政治的キャリアが損なわれるとなれば敵対する。

ジョンソンの場合もまさにこれで、彼は急速に有権者の信頼を失っていった。政策のせいではなく、人格のせいで。多くの有権者は今後、「ジョンソン式」の政策を受け継ぐにしても人格は「ジョンソン的でない」者への交代を望むだろう。

保守党支持者の多くが惜しむのは、ジョンソンの退陣で誰より喜ぶのがロシアのプーチン大統領であり、誰より悲しむのがウクライナの人々だろうという点だ。

もう1つ、言及しておいたほうがいい批評がある。名門私立イートン校で、17歳だったジョンソンに教師が記した評価だ。

「ジョンソン:古典の授業で、はしたないほど横柄な態度を示す。責任重大な失敗を犯して批判されたときに憤慨したような姿を見せることもある。あらゆる人が従う義務に自分だけは縛られない例外的な人間として見なしてもらえないことを、われわれの不作法だと心から感じているようだ」

多くの人は、この評価を「すごく予言的」と見るだろう。多分そうなのだろうが、ジョンソンと付き合う人は皆、結局この結論に行き着くようだ。

20231212issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2023年12月12日号(12月5日発売)は「イスラエルの過信」特集。ハイテク兵器が「ローテク」ハマスに敗北。汚名を返上するため強引な手段に走るイスラエルの代償と西側への教訓

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は続落、円高で輸出株などに売り 下値では押

ワールド

米イスラム教団体の激戦州指導者、バイデン氏再選に反

ビジネス

ユニクロ、11月国内既存店売上高は前年比10%増 

ビジネス

午後3時のドルは146円後半、一時3カ月ぶり安値後
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ間に合う 新NISA投資入門
特集:まだ間に合う 新NISA投資入門
2023年12月 5日号(11/28発売)

インフレが迫り、貯蓄だけでもう資産は守れない。「投資新時代」のサバイバル術

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    完全コピーされた、キャサリン妃の「かなり挑発的なドレス」への賛否

  • 2

    ロシアはウクライナ侵攻で旅客機76機を失った──「不意打ちだった」露運輸相

  • 3

    「ダイアナ妃ファッション」をコピーするように言われていた、メーガン妃とキャサリン妃

  • 4

    上半身はスリムな体型を強調し、下半身はぶかぶかジ…

  • 5

    下半身ほとんど「丸出し」でダンス...米歌手の「不謹…

  • 6

    最新兵器が飛び交う現代の戦場でも「恐怖」は健在...…

  • 7

    ロシア兵に狙われた味方兵士を救った、ウクライナ「…

  • 8

    バミューダトライアングルに「興味あったわけじゃな…

  • 9

    クリスマスツリーをよく見ると「数百匹の虫」がモゾ…

  • 10

    世界でもヒット、話題の『アイドル』をYOASOBIが語る

  • 1

    ロシアはウクライナ侵攻で旅客機76機を失った──「不意打ちだった」露運輸相

  • 2

    最新の「四角い潜水艦」で中国がインド太平洋の覇者になる?

  • 3

    「大谷翔平の犬」コーイケルホンディエに隠された深い意味

  • 4

    完全コピーされた、キャサリン妃の「かなり挑発的な…

  • 5

    下半身が「丸見え」...これで合ってるの? セレブ花…

  • 6

    米空軍の最新鋭ステルス爆撃機「B-21レイダー」は中…

  • 7

    <動画>ロシア攻撃ヘリKa-52が自軍装甲車MT-LBを破…

  • 8

    ミャンマー分裂?内戦拡大で中国が軍事介入の構え

  • 9

    男たちが立ち上がる『ゴジラ-1.0』のご都合主義

  • 10

    「ダイアナ妃ファッション」をコピーするように言わ…

  • 1

    <動画>裸の男が何人も...戦闘拒否して脱がされ、「穴」に放り込まれたロシア兵たち

  • 2

    <動画>ウクライナ軍がHIMARSでロシアの多連装ロケットシステムを爆砕する瞬間

  • 3

    「アルツハイマー型認知症は腸内細菌を通じて伝染する」とラット実験で実証される

  • 4

    戦闘動画がハリウッドを超えた?早朝のアウディーイ…

  • 5

    リフォーム中のTikToker、壁紙を剥がしたら「隠し扉…

  • 6

    <動画>ロシア攻撃ヘリKa-52が自軍装甲車MT-LBを破…

  • 7

    ロシアはウクライナ侵攻で旅客機76機を失った──「不…

  • 8

    ここまで効果的...ロシアが誇る黒海艦隊の揚陸艦を撃…

  • 9

    また撃破!ウクライナにとってロシア黒海艦隊が最重…

  • 10

    またやられてる!ロシアの見かけ倒し主力戦車T-90Mの…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story