コラム

スリム化は不可欠、「ポスト・エリザベス」の英王室の姿

2022年06月22日(水)15時40分
プラチナ・ジュビリー

英エリザベス女王在位70年のプラチナ・ジュビリーの催しは華やかだったが LEON NEAL-REUTERS

<ヘンリー&メーガンが外されるのは明らかで、メンバーはより小さな核に縮小し、チャールズ皇太子はモノ言う活動家国王に? 一時代を築いたエリザベス後の英王室について考えてみると>

イギリスの法令集のどこかには、ひょっとすると今でも君主の最後を予見することを禁じた古代法がひっそりと記されているかもしれない。それでも、壮麗だった在位70年のプラチナ・ジュビリーの祝典は、イギリスが女王エリザベス2世統治時代の最終章にいることを苦いほど思い起こさせた。セントポール大聖堂での礼拝では女王に心からの賛辞が送られたが、女王自身は体調不良で出席できなかった。ある意味で僕たちは、ポスト・エリザベス時代を既に目にしている。

さてそれは、どんな王国になるのだろうか。まず、一番明らかなことだが、エリザベス女王不在の穴は大きいだろうということだ。彼女以外が英国王だった時代を少しでも覚えている人はごくわずか。75歳以下の人なら誰でも、君主と言えばエリザベスなのだ。チャールズ皇太子がもちろん跡を継ぐだろうが、人々が彼を「女王の後継者」ではなく一人前の国王と見るようになるには時間がかかるかもしれない。

次に、未来の王室メンバーに誰が加わらないかというのも既に見えてきている。ヘンリー王子メーガン妃は自分たちの選択で離脱した。彼らはジュビリーの行事に参加したが、事実上は王族としではなく家族としての私的な立場での出席だった。彼らは半分だけ参加、ではいられないことを思い知っているだろう。王族の義務を放棄した以上、都合のいいときにだけ華やかな場に立ち寄る権利も剥奪されるのだ、と。

アンドルー王子も外された。米富豪ジェフリー・エプスタインの児童売春スキャンダルに関わったことで、彼は一線を越えてしまった。もう地位を回復することはできない。

自らの意思で「辞退」するケースも出てきている。アン王女(チャールズの妹)は自分の子供たちに王族の儀礼称号が与えられるのを辞退した。たしかに裕福な特権階級ではあるが、それでもわが子は一般人として自らの人生を歩むべきだと、現実を率直に受け入れたような判断だ。

王室のいっそうの「スリム化」は不可欠だろう。「女王の孫」や「いとこ」はそれ故に有名になり得るかもしれないが、国王の「姪」だの「いとこの子供」だのは拡大しすぎだ。王室メンバーはより小さな核に縮小する――チャールズとカミラ夫人、次代のウィリアム王子とキャサリン妃、そして彼らの3人の子供たちだ。その他数人は端役を務め、さまざまな慈善事業で名ばかりの代表に就くなどして名声を役立てるだろう。

カリスマ性はウィリアム王子にお任せ

3つ目に、当然のことを言えば、英君主制はヒエラルキーであり、チャールズはその頂点に君臨することになる。もう影にいることはなくなるだろう。彼は英王室をがらりと変えられる地位に就くだろうが、王室システムの安定性を損なうような方向に大きく踏み出すとは考え難い。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米イラン攻撃、国際法でどのような評価あるか検討必要

ワールド

ウクライナ首都と周辺に夜間攻撃、8人死亡・多数負傷

ワールド

イスラエル、イラン首都に大規模攻撃 政治犯収容刑務

ワールド

ゼレンスキー大統領、英国に到着 防衛など協議へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「過剰な20万トン」でコメの値段はこう変わる
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり得ない!」と投稿された写真にSNSで怒り爆発
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    EU、医療機器入札から中国企業を排除へ...「国際調達…
  • 10
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 9
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 10
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story