コラム

コロナ規制解除でブレグジット的「分断」が再び

2021年07月27日(火)17時15分

ジョンソン英首相はコロナの規制をほぼ全て解除 Daniel Leal Olivas-Pool-REUTERS

<イングランドでは新型コロナウイルスの規制が7月19日にほぼ全て解除され、「自由の日」になった。それでもまだロックダウンを続けるべきだと主張する人も多いが、この対立構図はブレグジットの時とそっくりだ>

理論上は、新型コロナウイルスの残りの規制もほぼ全て解除された7月19日は、イングランドにとっての「自由の日」になった。「理論上は」と言ったのは、大多数の人々は既にやりたいことはしていたからだ。

例えば、(7人以上の集会を禁じた)「6人ルール」の延長の是非を英政府が議論していたその日、サッカー欧州選手権でイングランドがウクライナに勝利しベスト4進出が決まったことで、僕の住む街でも何百人もの人々が路上で歌い踊り、抱き合って騒いでいた。彼らが道路をふさがないようにと警察が駆り出されていたが、群衆を追い払おうとも距離を取らせようともしていなかった。

イギリスの度重なるロックダウン(都市封鎖)や規制は事実上、ずっと自主性に任せて実施されてきた。僕がバスに乗ったり店に入ったりしたとき、マスクをしていない人に一人でも出くわすことはなかったと思う(あごマスクの人はよくいたが)。この1年で、警備員が客に「次はマスクをしてきてください」と注意しているのを見たのは1度だけ。こうした各人任せにもかかわらずつい最近まで、あらゆるルールが非常に厳格に守られていた。人々は、ウイルスを封じ込めなければならないという論理を受け入れたからからこそ、しっかりと従っていた。

その「論理」とは何だったのだろう。何のために僕たちは自由や楽しみを諦めるようお願いされてきたのだろうか。単純な答えは「命を守るため」だが、実際はもっと複雑だ。正当化される第1の理由は、コロナ拡大でイギリスの医療システムが逼迫し、死亡超過につながる恐れがあるからだ。イギリスの1回目の長期ロックダウンはその目的を達成した。病院や医療スタッフは働き詰めだったが、人工呼吸器が足りずに患者が病院の廊下で死亡する、という事態は起こらなかった。展示会場などを臨時病棟に作り替えた施設は、ほとんど使われなかった。

成人の70%以上がワクチン接種を完了

より感染力が高く危険な変異株が広がった昨年11月には、新たな段階のロックダウンが行われた。その頃にはワクチン接種開始が視野に入っていたから、人々は受け入れることができた。あと何カ月か耐えることで時間稼ぎができて脆弱な高齢者を守れるというときに、ウイルスの急拡大を許すのはばかげていると考えたからだ。

イギリスでは4月半ばまでには50歳以上の全ての人が1回目接種の通知を受けた。今では成人の90%近くが少なくとも1回接種を終え、70%近くが2回接種を完了している。感染防止レベルはとても高くなった。規制を続けるべき論理はそれに応じて低下している。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

IBM、コンフルエントを110億ドルで買収 AI需

ワールド

EU9カ国、「欧州製品の優先採用」に慎重姿勢 加盟

ビジネス

米ネクステラ、グーグルやメタと提携強化 電力需要増

ワールド

英仏独首脳、ゼレンスキー氏と会談 「重要局面」での
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    死刑は「やむを得ない」と言う人は、おそらく本当の…
  • 10
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story