コラム

迅速、スムーズ、何から何まで日本と正反対......あるイギリス人の「15分」ワクチン接種体験記

2021年06月01日(火)11時02分
新型コロナワクチンの大規模接種会場、北アイルランドのベルファスト

競技場も新型コロナワクチンの大規模接種会場となった(今年3月、北アイルランドのベルファスト) Clodagh Kilcoyne-REUTERS

<あの小さな瓶は科学界や政府や医療従事者の協力の結晶。それが分かったときに僕が感じたのは驚嘆と誇りだった――。ワクチン先行国イギリスはこうして接種率70%超を達成した>

1回目の新型コロナウイルスワクチン接種を受ける朝、僕はお茶をゴクリと飲み、待ち時間に読むための本を手に取って、家から駆けだした。

結局、本は要らなかった。お茶を飲み干していなかったら、家に帰ってきたときにはまだ温かかったろう。家を出ていた時間は15分。クリニックまで徒歩5分、診察室で5分、帰り道に5分だ。

僕のケースはちょっと珍しい。遠くの病院や接種センターではなく、地元のクリニックで接種を受けるよう案内された。

でも見方を変えれば、僕の経験は特別ではなかった。ワクチン接種はイギリス中で順調に進んでいた。僕が1回目の接種を受けた3月20日には87万3784人が接種を受け、最多記録を作った。

接種を受ける人は決められた時間より早く会場に来ないように言われる。人の流れをしっかり管理するためだ。マスクを着け、手指を消毒した後、名前を確認されてクリニックに入った。

僕を含めて6人が廊下で互いに距離を取って並んだ。接種を受ける列だろうと思ったが、そうではなかった。6人はそれぞれ接種を受ける小部屋の前にいて、直前の人が終えるのを待つという流れだった。

接種プログラムが最初から、受ける人の便宜をしっかり考えていたとは言えない。それは僕の家族の経験からも、よく分かる。

高齢の両親が接種を受けた頃は対応できる人数が限られていて、予約を取るのが難しかった。父は母より高リスクのグループに入っており、同じ時間枠の予約が取れなかった。結局、父と母は別々の日に製造元の違うワクチンを接種された(父はファイザー、母はアストラゼネカ)。

ワクチンの供給不足は4月と5月にも起きた。高齢者が2回目の接種を受ける時期だったが、同時に40代以上が1回目の接種に呼ばれていた。予約は瞬時に埋まった。

妹は車で1時間かかる会場に行って接種を受けた。彼女の夫はその数日前、違う方向に車で1時間の別の会場で接種を受けた。それぞれが半日ずつ遠出したので、子供の世話が大変だった。

ワクチンジョークが飛び交う

でも、そんなのは細かい話だ。全体としてみれば、イギリスでは5月26日の時点で、成人の72.9%が1回目の接種を終え、44.8%(僕も含む)が2回の接種を完了した。ここには、70歳以上で重症化しやすいとされる市民のほぼ全員が含まれている。

これらの数字はアメリカより多く、フランスやイタリアなどEUの大国よりはるかに多い。もちろん、2回目の接種を完了した人が人口の2.3%にすぎない日本よりずっと多い。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

EU・仏・独が米国非難、元欧州委員らへのビザ発給禁

ワールド

ウクライナ和平の米提案をプーチン氏に説明、近く立場

ワールド

パキスタン国際航空、地元企業連合が落札 来年4月か

ビジネス

中国、外資優遇の対象拡大 先進製造業やハイテクなど
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 8
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 9
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 10
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story