コラム

一周回って当然の結果に終わったブレグジット

2021年01月11日(月)10時15分

EUとの通商協定合意書にサインして喜びのポーズを見せるジョンソン英首相 Leon Neal-POOL-REUTERS

<4年半もの年月を費やしたイギリスのEU離脱は、パーフェクトな離婚とは言えないまでも実行可能な合意に落ち着いた>

ブレグジット(イギリスのEU離脱)の是非を問う2016年の住民投票から、数日前の「移行期間」終了までに、4年半が過ぎた。第1次大戦よりも長い期間だ。こんな比較をするのは単に、僕が歴史に夢中だった学生の頃、このくらい長い期間続く劇的な出来事を体験したらどんな感じがするだろうかと、よく想像したりしていたからだ。

これは大ざっぱな総括になるが、ブレグジットのこの4年半はうんざりさせられ、分断を招き、時にトラウマ的なものだったけれど、結局は最初から「当然」のはずだった結論にたどり着いた。つまり、イギリス人の過半数が決して満足していなかったEU加盟からは抜けつつも、友好国である近隣諸国と自由貿易協定は結ぶ、ということだ。

EU懐疑派にとっては、苦痛な交渉期間がここまで長引いたのを「硬化症の」EUのせいにしたくなるのも当然だろう。でも僕は、責任の大部分(全てではない)はイギリスにあると思う。そもそもはデービッド・キャメロンが、自分の望まない結果(つまりEU離脱)になる可能性を何ら想定しないまま国民投票を実施したのが全ての発端だ。彼はEU残留が勝つほうに、そしてこれまで通りの日常が続くほうに賭けた。

その賭けに負けると彼は退陣し(「横柄な退場」と言う人もいる)、厄介な仕事を他人に押し付けた。僕たちは「次々と問題が出るたびに何とか処理」していかなければならなかった。とはいえ、彼は数十年来にわたって意見すら聞いてもらえなかった大きな問題について、イギリス国民に発言権を与えてくれたのだ。

保守党議員はテリーザ・メイをキャメロンの後継に選んだ。当時これは、賢明な選択に見えた(僕もそう思った)。離脱は僅差での勝利だったから、「歩み寄り」できる首相は理にかなっていた。彼女はEU離脱を約束したが、熱狂的ブレグジット派ではない。分断を癒やすにはある種の「ソフトブレグジット」が最善に感じられた。だが結局、彼女は埋めようのない分断を埋めようともがく典型的なパターンに陥り、穴に転落した。今思い返せば、あの時必要だったのはブレグジット信奉者のリーダーだったのだ。

反ブレグジット勢力は裏切り行為に走った。民主的結果を受け入れない彼らの姿勢は、何年もの停滞をもたらした。金と権力を持ち特権意識の高いエリートたちが、国民投票を無効にすべきだと断言した。基本的に彼らの言いたいことは、「私の1票はあなたがたの1票より重い......。あなたがたはブレグジットの実体を理解していなかったが、私はちゃんと理解している」。

彼らはロンドンで大規模なデモを何度か行ったが、彼らのほとんどがロンドンの住人だったから、容易に実施できた。レスターやサンダーランドのような地方都市に住んでいる大勢のブレグジット賛成派の人々は、EU離脱を求め続ける自分たちの声が、メディアに軽視されているように感じていた。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日米豪印、4月のカシミール襲撃を非難 パキスタンに

ビジネス

米ゴールドマン、投資銀行部門グローバル会長にマライ

ワールド

気候変動災害時に債務支払い猶予、債権国などが取り組

ビジネス

フェラーリ、ガソリンエンジン搭載の新型クーペ「アマ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 7
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 8
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story