コラム

イギリス分断を際立たせるコロナ第2波、当初の結束はどこへ?

2020年10月23日(金)17時30分

以前から、イングランド北部は南部に比べて貧しかった。僕の生きてきた時代においても、たとえばリバプールやマンチェスター、シェフィールドのような北部の街は、重工業の衰退やサッチャー政権の経済政策などによって、非常に高い失業率と貧困を経験してきた。北部の人々は概して、ロンドンの政府は彼らを無視しており、南部の人々は自分たちの暮らし向きがいいから彼らのことなど気にかけていないと感じている。

マンチェスター市長は、中央政府の指示どおり同市でより厳格な規制を行う計画に難色を示している。それは単に、どんな規制が必要でどんな規制が効果的かという点で賛同しかねるという問題だけではなく、地域全体の反感と階級意識の問題が絡んでいる。

単純化しすぎだろうとの批判を恐れずに言えば、マンチェスターの立場はこうだ。私たちは既にあなたがたより貧しいのに、あなたたちは十分な追加の経済支援もせずに私たちの収入やビジネスを脅かす規制を受け入れろと言うのか――。

イングランド全体で全く同じ規制が行われるのなら、話は違っただろうと僕は思う。だが今回の政策では、あまりウイルスが拡大していない地域の人々には半ロックダウン(都市封鎖)的な規制を課しておらず、そうした地域は図らずも裕福な南部の州と重なっている。

不可解な規制の論理

新型コロナウイルス規制は混乱しているし、コロコロ変わり続けている。北部の多くが、パブ閉鎖や家族以外の人と会うことが禁じられるなどの最も厳しい「ティア3」下に置かれている。規制緩和の夏の結果が、この状況だ。ウェールズは基本的に新たなロックダウン状態だが、遠回しに「ファイアーブレイク(防火帯)」なる語で呼ばれている。

僕の住むエセックス州はティア1(中リスク)からティア2(高リスク)に移行したばかりだ(「低リスク」というカテゴリーはない)。この移行が厳密に何を意味するのかよく分からないのは、僕だけではないだろう。僕たちは互いにしょっちゅう、今は何ができて何は禁止なのかと聞き合っている。最近の会話の中でよくあるお決まりのパターンは、急ごしらえの規制のばかばかしい奇抜さをあげつらうことと、奇妙な抜け穴を探し出すことだ。

たとえば、1マイル離れているだけの隣接する村が別々の州に属する場合や、州境の川で分断されている村などといったケースがいくつかあるが、この場合は片方ではある規制が適用され、もう一方ではより厳しい、あるいはより緩やかな規制が適用されるということになる。

どうやら、仕事関係の人は僕の家を訪ねられるが、友人はダメらしい(ならば、友人に僕の家の塗装の仕事を頼んで、その作業中におしゃべりすることは可能?)

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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