コラム

「ブレグジット再投票すれば?」は危険な考え

2018年12月21日(金)14時45分

もしも離脱の是非を問う国民投票が再実施されたりすれば、分断はさらに悪化しEUはつけ上がるだろう Phil Noble-REUTERS

<EUからの離脱を望む人も残留を望む人ももはやどうしたらいいか分からないほどぐちゃぐちゃになり果てている、ブレグジットをめぐる4つの論点>

ブレグジット(イギリスのEU離脱)のプロセスについては、状況が目まぐるしく変化しているだけに記事にするのが難しく、だからこそ日々のニュースをそのつど報道するか、全体的な分析をするために大きな出来事が起こるのを待つか、のどちらかになってしまう。

だが今回の記事は、そのどちらでもない。この混乱した状況に洞察を与えようと試みるものではあるけれど、「全体像」を描くものではないし、もちろん実況解説でもない。

1つ目の論点を挙げよう。明白なことだが、ブレグジットはかなりめちゃめちゃな状態になっている。多くのイギリス人が、ブレグジットをまず望んでいるわけではない。離脱を本当に望んでいる人々だって、どういう形態の離脱にすればいいのか意見が一致していない。テリーザ・メイ英首相は、本心では残留のほうがいいと思っているのに、国民投票で国民が選択し、彼女自身は信じてもいないブレグジットを進める、という一筋縄ではいかない仕事を引き受けている。

EUは何よりもまずEU自身の存続を最大の関心事にしていて、いかなる加盟国の離脱もできる限り苦痛なものにしてやろうと考えている(たとえその取引が、EU自身やEUの同盟国であるイギリスの経済的利益を損なうことになろうと)。実際のところEUは、悲惨な取引にすればイギリスが考えを変えて残留するだろう、と計算している節もあるようだ。

2番目の論点として、ブレグジットの是非を問う国民投票を再実施すれば局面を打開できる、という考えは危険だ。そんなことになれば、EUを図に乗らせるだけ。EUは、ブレグジットはまだ既成事実ではないし、前回の国民投票で離脱票を投じた人々にとっても受け入れ難いほどの取引を結ぶことで「反乱」そのものを鎮圧できる、というふうに考えるだろう。

また、国民投票の再実施でイギリスが今以上に分断されるリスクがある。豊かな人々や大都市の住人は圧倒的に残留票を投じる一方、豊かでない人々や地方の住人が離脱票を投じるだろうことは、かなりはっきりしている。2度目の国民投票は「一般の」国民の目から見れば、「権力層のエリートたち」が民主的な声を黙らせるために力を行使した、というふうに映るだろう。

再投票は離脱派の票を割るように不正操作されるだろうから、公平なものにはならないだろうと、一般のイギリス人は考えている。つまり、「これらの具体的な条件下においての離脱」か「残留」か、という2択で問うことで、「概してあなたは残留を望むか離脱を望むか」という当初の問いを変えてしまうというわけだ。これは、「離脱」か「残留してEUの欠点も全て受け入れEUの運営に対してほとんど、あるいは全く管理権をもたないことに同意」か、という2択で問うのと同じくらい不公平だろう(こちらの2択にすれば残留派の票を割ることになる)。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 5
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story