コラム

子供時代のヤバすぎるいじめっ子を思い出させたロシア

2018年03月28日(水)11時40分

ロシアの最近の態度はまるで理屈が通じない乱暴ないじめっ子 Maxim Shemetov-REUTERS

<中等学校に通っていた時の、理屈が通じない乱暴ないじめっ子が思い出されるのは、ここ最近のロシアの振る舞いに通じるものがあるから>

僕が中等学校に通っていた頃、なんとしても関わり合いにならないほうがいいと、みんなに思われていた生徒がいた。ジョー(仮名)は僕より何歳か年上で、乱暴なだけではなく、普通のルールが通用しないことでも有名だった。僕が通っていた男子校では、年上の生徒が自分の権威を誇示するのは「普通」のことだったが、彼の場合は普通じゃないレベルだった。

僕たちは登校初日に、ジョーに昼食代を盗まれることがあるぞ、と教えられた。ジョーは数歳年上なのに加え、体もずっと大きかったから、僕はかなり怖がった。彼の顔を覚えてからは、僕はうまい具合に近寄らずにいられた。

もう30年以上も前の話なのに、「僕が覚えている限り」ジョーは他のいじめっ子たちのように理屈が通じるタイプではなかった。たとえば、同じ小学校の卒業じゃないか、とか、僕の兄貴と同じサッカー部だっただろう、とか、そんな話をいくらしてもお構いなし。問答無用で金品を巻き上げられた。

通常、年上の少年が年下の少年に関わり合いになるのは、「分をわきまえていない」と判断したときだけだ。先輩に生意気な発言をするといった、ヒエラルキーをないがしろにするようなことをすれば、年上の少年たちは年下にヘッドロックをかけて「教え込んでやった」。僕もそうした行為の一つとして尻に蹴りを入れられたこともあれば、入れたこともある。

時には、ワルとしてのイメージを保つために年上の生徒が「貢ぎ物」を要求することもあった――そのポテトチップスをちょっとよこせ、とか。だが、せいぜいそれでおしまい。そうした行為と、暴力で脅して年下の生徒からお金を巻き上げるのとでは、明確な違いがある。

ジョーは道徳心が完全に欠落していた。お金を巻き上げるときは残らずむしり取り、バス代がないから30ペンス必要なんだとかいうふりすらしなかった。ジョーにお金を奪い取られた生徒は、友達からカンパしてもらわなければ昼食を諦めるか、歩いて家に帰るしかなかった。学年が上がっても、ジョーが毎年新入生をいじめ続けていたことを今でもよく覚えている。もう13歳じゃなくて15歳だというのに、それでも11歳の生徒たちを標的にした。

報復を恐れていたから、先生に告げ口しようとする者は誰もいなかった。代わりに彼は、年下を「格好の餌食」と見なすような同級生たちからさえも、徹底的に嫌われ、仲間外れにされていた。ある時期、ジョーは格闘技を習い始めた(たぶん空手だったと思う)。もう十分危ない人間が新たな戦闘術を身に付けるなんてすごくヤバいことになるぞ、と僕たちはみんな考えた。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意

ワールド

国際刑事裁の決定、イスラエルの行動に影響せず=ネタ

ワールド

ロシア中銀、金利16%に据え置き インフレ率は年内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story