コラム

セレブがこぞって応援するサッカーチームって?

2015年06月15日(月)10時00分

 今のイギリスで、ちょっと気になる偶然の一致がある。イギリスの首相であるデービッド・キャメロンと王位継承順位第2位のウィリアム王子が、同じサッカーチームを応援しているのだ。

 さらに奇妙なのは、そのチームがアストン・ヴィラであること。サッカーファンは通常、地元のチームか、少なくとも自分が育った地域のチームを応援する。ところがキャメロンもウィリアム王子も、ヴィラの本拠地であるバーミンガム生まれでもなければバーミンガム育ちでもない。

 僕は以前にもある有名人が応援しているチームを知って、なぜこのチームなんだと不思議でたまらなかったことがあるが、それもまたヴィラだった。イギリスで最も有名なクラシック奏者の一人でバイオリニストのナイジェル・ケネディだ。トークショーやラジオのインタビューで、彼はいつもビバルディを語るかのようにヴィラについて語る。

 ケネディはバーミンガム出身ではないし、明らかなロンドンっ子なまりだから、彼がウエストハムのようなロンドンのクラブではなく、ヴィラを応援するのはすごく不自然に感じる。

 この3人に共通するのは、「素朴」とか「ごく普通の男」と見られることで得をするということだ。サッカーはイギリスの国民的スポーツとして知られているが、より現実的な言い方をするなら、イギリスの「労働者階級の」娯楽だ。上の階級の人々はラグビーやクリケット、テニス、馬術などをたしなむもの。イギリスのスポーツには明らかな階級の隔たりがある。

 3人それぞれに、ヴィラを応援するそれなりの理由はあるのだろう。それを疑うつもりはないし、サッカーファンを名乗るからには誰しも「筋金入りの」ファンでなければならない、とも思わない。気軽なファンが入り込む余地だってある。でもこの3人にとって、サッカーファンとみられるのは彼らの利益にかなう、という点が面白い。

 イギリスにおいてクラシック音楽は、上流階級的で大衆向きではないというイメージだ。ケネディがパンクに身を包み、労働者階級のなまりでサッカーについて語りながら音楽界に現れると、そのスタイルはなんだか斬新で、おかげで一気に有名になれた。

 彼のキャラクターが宣伝のための戦略だとしたら、大成功だった。ケネディが89年にレコーディングしたビバルディの「四季」は、「平均的な」イギリスの家庭にある唯一のクラッシックCDではないかと思う。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 2
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 5
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 6
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    ただのニキビと「見分けるポイント」が...顔に「皮膚…
  • 10
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 7
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story