コラム

絶好調アーセナルに僕はハッピー!

2013年12月18日(水)18時20分

 これを書いている今、僕は幸せな気分だ。最近はいろいろとストレスを感じることが多いから、自分でも驚いてしまうのだが。うっとうしい天気、世界情勢、個人的な財政危機に消化不良......それでも僕はハッピーだ。

 僕が幸せなのは、多くが非イギリス系である大富豪たちがしっかり仕事をしているから。かなり理解しがたい理由だとは思う。彼らはその仕事に対して高い報酬を得ているし、他人からの称賛や仕事の満足度においても十分な見返りを得ている。普通なら、僕もこんなことで幸せを感じたりはしない(普通なら嫉妬するだろう)。でもこの大富豪たちは、僕が子供の頃から応援しているサッカーチーム、アーセナルに所属しているのだから話は別だ。

 僕のように、自分の精神的安定のいくらかの部分をサッカーチームに「アウトソーシング(外部委託)」しているイギリス人は珍しくない。これはイギリス人男性の心理を理解する上で、とても重要な問題だ。自分の好きなチームがいい成績なら非常に心安らかでいられるし、ひどい成績ならいらいらして落ち込んでしまう。

 一番幸せな状況は――これが今の僕なわけだが――自分の応援するチームが好調で、一番嫌いなチームが問題を抱えている時だ。

 今のところ、アーセナルはイングランド・プレミアリーグの首位に立ち、欧州チャンピオンズリーグ(CL)でも好成績を収めている。僕はテレビでできるだけ多くの試合を見ているが、結果が良かった時には大きな重荷が外れたように感じるばかりか、他人ともうまくやれる。アーセナルのファンである友人たちとは、温かな満足感をともに味わう。ライバルのチームを応援している友人たちに対しても優しくなれる(「僕の」チームが「彼の」チームに負けたばかりの時は違うが)。

 ある友人が以前にこんなことを言っていた。「チームを1つ選ぶという7歳の少年が小さな決断が、残りの人生の心理状態に影響するなんておかしいね」

 最近では、アーセナルがシーズン最初の試合でひどい負け方をした時に僕の父がこう言った。「このシーズンも、彼らがばかな負け方をするのを見るなんて耐えられそうにない」

■サッカーは強烈な喜びと悲しみの源

 だが驚くべきことに、その開幕試合はただの例外だった。そこからスイッチが入ったように、アーセナルは次々と勝利。ただ勝つだけではなく、劇的な勝利、愉快な勝利をみせてくれた。2シーズン前は期待はずれの働きをしたり、成長できなかったり、ケガばかりしていたような選手たちが自信と大胆さをもってプレーし始めた。

 予測不可能なところがサッカーの魅力。簡単に勝てそうな試合が接戦になったりするし、輝かしい新契約が大失敗に終わることもある。疲弊して故障者だらけのチームがリーグ上位のチームを破ることも、「楽勝」と思った試合が最後の5分でひっくり返されることもある。8年間も優勝と無縁のチーム(アーセナル)が、彼らの強さを疑う人を黙らせたりする。

 イギリス人男性にとってサッカーは強烈な喜びと悲しみの源であり、終わりなき議論の対象だ。人を結び付けると同時に、あつれきの原因にもなる。人はサッカーを通じて絆を強めるし、仲たがいもする(僕は2人のいとこと一緒にいる時は気を付けなければならない。アーセナルのライバルチームの熱烈なファンだから)。

 大金持ちのさまざまなチームについて、これほどの情熱を傾けるのは確かに奇妙だ。でもイギリスを訪れ、イギリスの文化を理解したいと思う人なら知っておくべきことである。

 もしもアーセナルの快調な成績がストップしてしまったら、僕にサッカーのことは尋ねないでほしい。どんなにほかの事がうまく行っていても、僕はひどく不機嫌だろうから。

 注)これを書いた後で、アーセナルは2敗してしまった(だからサッカーは分からない)。それでもまだリーグ首位だし、チャンピオンズリーグにも残っている。だからまだ僕はハッピーだと思う。でも、もしもまた負けたら......。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国国防相、「弱肉強食」による分断回避へ世界的な結

ビジネス

首都圏マンション、8月発売戸数78%増 価格2カ月

ワールド

米FRBのSRF、今月末に市場安定の役割果たせるか

ワールド

米政権、政治暴力やヘイトスピーチ規制の大統領令準備
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story