コラム

本気度に?が付く立憲・枝野代表の政権構想本

2021年06月25日(金)11時30分

HISAKO KAWASAKIーNEWSWEEK JAPAN

<来たる衆院選の前哨戦とも位置づけられる東京都議選が始まった。総選挙前にはいわゆる「政治家本」が多数出版されるが、立憲民主党の枝野幸男代表が上梓した『枝野ビジョン 支え合う日本』にはある大事な要素が欠けている>

今回のダメ本

ishido-web062301.jpg支え合う日本
枝野幸男[著]
文春新書
(2021年5月20日)

衆議院議員選挙が近づいている。選挙の直前になれば、政治家による本も数多く出版されてくる。本書もその1冊、といっていいだろう。

枝野幸男氏本人には何度かインタビューをしたこともあるのだが、印象は悪くはなかった。時に横柄な態度の政治家とも出会うが、そうしたことはなく、立憲民主党にとって都合の悪いことであっても誠実に受け答えしよう、という意思は伝わってきた。

本書にも誠実さは一定程度感じられる。特に基調となっている「自己責任論」批判は、昨今の政治状況を鑑みれば、必要なものである。では、どのような政策で転換を試みるのか。金融緩和、財政出動、規制緩和を柱にした「アベノミクス」を枝野氏は、「本質的な課題」なるものから目を背けてきたと批判する。「アベノミクス」は明治以降150年の近代化が生み出した手法で、人口増を前提とした社会の仕組みと近代化は限界を迎えており、だからこそ「その先の社会像」を描くことが必要だという。

問題はそんなに大仰なものだろうか。枝野氏は「アベノミクス」という名称に引きずられているが、その中身自体はヨーロッパでは左派政党も主張するようなスタンダードなマクロ経済政策だ。簡単に言えば、デフレ不況を脱するために、異次元の金融緩和で日銀がお金を市場に流し、政府がお金を出して公共事業で雇用を生み出すというものである。

安倍政権の「大失策」

アベノミクスが支持されたのは、民主党政権下でのマクロ経済政策がことごとく失敗に終わり、雇用が増えなかったことに遠因がある。アベノミクス下で雇用は増加に転じ、就職市場は明らかによくなった。むしろ批判が必要なのは、安倍政権が本当はもっと好景気になるはずだったのに、アクセルとブレーキを同時に踏むような矛盾した政策を取ったことだろう。

金融緩和でただ市場にお金を流すだけではなくて、政府が財政出動を通じて「デフレを脱却するまで、お金を出し惜しみしない」というメッセージを発信し続けることがポイントなのに、2度の消費増税によって、本当ならもっと成長できた経済に大きな打撃を与えたこと。ここが、安倍政権の大失策だ。

プロフィール

石戸 諭

(いしど・さとる)
記者/ノンフィクションライター。1984年生まれ、東京都出身。立命館大学卒業後、毎日新聞などを経て2018 年に独立。本誌の特集「百田尚樹現象」で2020年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を、月刊文藝春秋掲載の「『自粛警察』の正体──小市民が弾圧者に変わるとき」で2021年のPEPジャーナリズム大賞受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象――愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)、『ニュースの未来』 (光文社新書)など

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