コラム

オリラジ藤森「コミュ力モンスター」の面目躍如

2021年03月05日(金)20時00分

HISAKO KAWASAKIーNEWSWEEK JAPAN

<本書はコミュ力を高めるとどこまでいけるのかという問いを、藤森慎吾という1人のお笑い芸人を通して考えることができる稀有な一冊である。そして、彼が教えてくれるのは「人に頼ることがもっと大事」ということだ>

今回のダメ本

ishido^web210305.jpgPRIDELESS(プライドレス)受け入れるが正解
藤森慎吾[著]
徳間書店
(2021年1月)

コミュニケーション能力という言葉がある。就職活動中に、やたらと聞かされて辟易したという人も多いだろう。学生に求めたい力は「コミュニケーション能力」と企業の人事担当者は言うのだけど、具体的に何を指すのかがまったく分からないとみんな思っていたらしく、ついには「コミュ力」と揶揄されるような略称が定着した。

本書はコミュ力を高めるとどこまでいけるのかという問いを、藤森慎吾という1人のお笑い芸人を通して考えることができる稀有な一冊である。私は、藤森こそ最強の「コミュ力モンスター」だと思うに至った。一世を風靡したチャラ男キャラは彼の地の部分をカリカチュアしたものだ。その本質は付いていくべき先輩たちを見極め、彼らの話を素直に聞き、相手を肯定して、場を盛り上げることにある。

今や芸人ユーチューバーの先駆け的存在になった中田敦彦とのコンビ、オリエンタルラジオが一時売れなくなったときのエピソードが象徴的だ。藤森は吉本興業の先輩芸人たちと飲みに行き、関係を深めていった。そこから得られた教訓は誰彼かまわず仲良くなっていくのではなく、ウマの合う人たちと仲良くなろうとか、スマホにネタのメモを作るといった努力を一応はできる限りやるが、それだけでは限界があるので人に頼ることがもっと大事だというものだ。

「ぼくはちっぽけな自分のプライドなんて捨てて、ひとに頼って生きてきた」「メモにはプラスのことしか書かないと決めている」

何かを実現したいという理想も抱かず、悪口も言わない。夢を聞かれれば「いつかは大河ドラマに出たい」と漠然としたことを言う。YouTubeやオンラインサロンを始めてみるなど中田のまね事も欠かさない。周囲の和は決して乱さない。これぞコミュ力である。彼にとって、相手を否定しないことは、キラキラした中田の横にいた自分の存在を肯定することだ。

プロフィール

石戸 諭

(いしど・さとる)
記者/ノンフィクションライター。1984年生まれ、東京都出身。立命館大学卒業後、毎日新聞などを経て2018 年に独立。本誌の特集「百田尚樹現象」で2020年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を、月刊文藝春秋掲載の「『自粛警察』の正体──小市民が弾圧者に変わるとき」で2021年のPEPジャーナリズム大賞受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象――愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)、『ニュースの未来』 (光文社新書)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、イラン・イスラエル仲介用意 ウラン保管も=

ワールド

イラン核施設、新たな被害なし IAEA事務局長が報

ビジネス

インド貿易赤字、5月は縮小 輸入が減少

ワールド

イラン、NPT脱退法案を国会で準備中 決定はまだ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story