コラム

ロシア作家連合が前線で「文学の降下作戦」を展開──ウクライナ戦争下の「Z作家」と詩人たち

2025年07月07日(月)13時25分

彼は、ロシア軍事歴史協会会長も務めている。プーチン大統領は、首席歴史家として、2023年に彼に高校3年生向けの「愛国的な」歴史教科書再編の任務を委ねた。ちなみに、彼は1970年にソ連の構成国であるウクライナ共和国、キーウの南に位置するチェルカースィ州に生まれ、80年代にモスクワに引っ越すまでウクライナで育った経歴をもつ。

メディンスキーの演説や教科書は、「ロシア国家が守護者である」と主張する歴史的「真実」を展開しており、イデオロギー史家と批判される。


この「首席歴史家」は、どれほどの学者なのだろうか。

ロシアの歴史家たちは彼を提訴した。2011年に書かれた彼の論文「中世ロシア」が誤りだらけで、方法論に欠け、イデオロギー的な一般化に依拠していると主張し、学位の取り消しを求めたのだ。しかし、その請求は却下された。

一方、ヨーロッパの歴史家の集団は今年5月、「ウクライナのための歴史家たち」を立ち上げ、ロシアが第二次大戦の記憶を改ざんし、最も残虐な行為を正当化していると非難。署名活動を行い、欧州のメディアに訴えている(現在438名が署名)。ロシアの新しい法律では、赤軍や退役軍人を批判することは犯罪であり、ソ連の犯罪を暴露する書籍は禁止され、ミュージアムや機関は閉鎖されているという。「平和、民主主義、自由の回復といった価値観を守るために団結し、破壊的な紛争を再び起こしてはならない」と、歴史家たちは主張する。

これは自由と「ヨーロッパ」を賭けた闘いなのだ。

詩人を殺すもの

さらにメディンスキーは、文化界を愛国心に奉仕させ、自由主義的とみなされた作家や演出家を迫害してきている。

アルティオム・カマルディンという33歳の詩人は2023年12月、7年の懲役刑を受けた。「憎しみの扇動」と「国家の安全を脅かす活動」という罪状だと、英紙ガーディアンは報じている。

彼はモスクワ中心部の広場にある、ソ連時代から政治的・詩的な集いの場と知られる詩人ウラジーミル・マヤコフスキー(1893-1930)の像の前で、「私を殺せ、民兵よ」という怒りに満ちた詩を朗読した。

プーチン大統領の背後にいるシロビキと呼ばれる治安機関を非難し、「あなた方の大統領は、あなた方をとても喜ぶだろう。私をバラバラに引き裂け!」と詠みあげた。また、ウクライナ南部を併合しようとする帝国主義的な「新ロシア」プロジェクトに対して、攻撃的なスローガンを叫んで逮捕された。

「私は自由なロシアで生まれました。この国はもう存在しません。ロシアと名乗る怪物によって破壊され、食い尽くされたのです」

詩人は拘禁中に、警官たちからバーベルで強姦されたと主張している。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科、社債が約50%急落 償還延期要請

ワールド

米大統領が台湾問題で中国挑発しないよう助言との事実

ワールド

香港高層住宅群で大規模火災、55人死亡・279人不

ビジネス

再送-第一生命HD、30年度の利益目標水準引き上げ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story