コラム

冷戦思考のプーチン、多様性強調のバイデン 米欧露が迎える新局面とは?

2021年12月28日(火)16時30分

一方で、このままこう着状態が続く可能性や、取りあえずは外交的妥協が生まれる可能性もある。「取りあえず」というのは、米欧がロシアの要求をそのまま飲むとは、全く考えられないからだ。

1月の交渉はどのように運ぶのだろうか。ロシアは自国の安全保障に今、10年後ではなく今、確約を与えることを繰り返し要求している。そして、今まで無視し続けた欧州とのコンタクトを、除外はしなかったという。直接なのか、欧州安全保障協力機構(OSCE)の枠組みなのかは、まだ不明である。

プーチン大統領の心の内は誰にもわからないが、なぜ今この事態かというのなら、ゼレンスキー大統領のアメリカとNATOへの接近、当人の年齢(69歳)だけではなく、唯一話ができる相手と言われてきたメルケル首相(67歳)の引退も関係あるかもしれない。

東ドイツ出身で、ロシア語を話したメルケル前首相。二人で会話するときは、彼女がロシア語、プーチンがドイツ語を話していたという。

そんな世代の二人と異なり、現在、EU加盟国の首脳の平均年齢は、50代と若い。特に、東欧よりも西欧が若い。

若いのは、民主主義が上手くまわっているだけではなく、EUのことが理解できる世代でないと、政治ができないからだろう。彼らにはもはや、プーチン大統領とは共通の基盤がほとんどない。

欧州では冷戦は終わったのだ。別の新しい時代が到来し始めている。でも、まだ残されている課題がある。それが、ソ連を構成していた国々で、東欧よりもっと東の国々である。

プーチン以降はロシアの民主化は必然と思われ、アメリカも主要な軍事的関心をもはや欧州には示さないなかで、ウクライナが途上に残されているのだ。次はモルドバ(と沿ドニエストル共和国)かもしれないが......。

imai211228_map.jpg

Wikipediaをもとに筆者が作成。ウクライナもモルドバも、ロシアとの関係が不安定な国々には、ロシアの力を背景とする自称の共和国が存在する

やっと1月から交渉のテーブルは設けられることになったが、ロシアに「無視された」状況に置かれ続けた欧州は、いま何をして何を考えているのだろうか。

ロシアは、NATOの対話の呼びかけもほぼ無視して、アメリカとだけ話していたが、特にEUと欧州の首脳に与えた心理的影響は大きいだろう。EUの今後の方向性に、このことがきっかけとなり、歴史的な影響を与えるのではないかとさえ感じる。

この問題は、また稿を改めて書きたいと思っている。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P500・ナスダック下落、中東情

ビジネス

NY外為市場=ドル/円3週ぶり高値、中東への米関与

ビジネス

利下げ急がず、関税リスク無視できず=米リッチモンド

ワールド

プーチン氏「ウクライナ全土がロシアのもの」、スムイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「過剰な20万トン」でコメの値段はこう変わる
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    全ての生物は「光」を放っていることが判明...死ねば…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    「巨大キノコ雲」が空を覆う瞬間...レウォトビ火山の…
  • 8
    マスクが「時代遅れ」と呼んだ有人戦闘機F-35は、イ…
  • 9
    「まさかの敗北」ロシアの消耗とプーチンの誤算...プ…
  • 10
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 10
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 5
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 6
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story